バキッ
 オレの手の中で鉛筆が砕け散り、テーブルにパラパラと落ちていった
 折れた鉛筆は置き去りに、新しい鉛筆を持ち直す

 昨日の晶の姿が頭の中から離れない

 なんで泣いてた?なぜオレに謝る?
 晶・・いったいお前に何があった?

 『私の事はほっといてって事』
 晶はオレにそう言ったが、あんな作り笑いされて、ほっとけれるか

 大きな瞳から大粒の涙まで流して、身体中に蕁麻疹まで出して

 『何も・・ない』だと?

 バキッ
 鉛筆がまた折れた。折れた木くずが指先に刺さり、赤い血が薄っすらと滲み出た

 こんな事なら、母さんと行かせるんじゃなかった
 
 あのまま晶を本当に連れさればよかった

 少なくとも、オレの傍に置いておけば、何が晶に起こったかも把握出来たはずだ


 『ダメな妹でごめんね』

 何を今更、オレに謝るんだか
 オレはお前の良い所も、悪い所もすべてひっくるめて好きなのに

 どうしてあいつは、気付かないのか・・

 

 「桜庭君、皇紀君?だめだわ。会長も副会長もこれじゃぁ、話し合いにならない。生徒会の定例会はこれで解散ね」

 顔を上げると、生徒会役員がゾロゾロと席を立って、帰るところだった

 「あれ?」

 「あれ?じゃないわよ。いったいどうしたの桜庭君。あなたらしくもない。心ここにあらずって感じね。勝手に定例会終わらせたけど、良かったかしら?」

 3年の会計担当の新條(しんじょう)先輩がオレの目の前の折れた鉛筆の屑を片付けながら、肩をすくめた

 「すみません。新條先輩、少し考え事をしていたもので」

 「考え事ね。そのおかげで、生徒会の事務用品の鉛筆が12本も無駄にしちゃったわね」

 返す言葉もない。晶の事を考えていたせいで、肝心の生徒会の定例会を厳かにしてしまった

 「先輩、オレが片付けます」

 「じゃぁ、片付けよりあそこにいる人の目を覚まさせてくれないかしら?」

 指を指す方向を見ると、窓の桟にうつ伏せ、ティッシュを縦に引き裂いてヒラヒラと外に飛ばしている沢村会長の姿があった

 「勝羽(かつば)、朝からずっとあの調子で困るのよね。魂が抜けていると言うか。腑抜けてるっていうか」

 確かにいつもと様子が違うが・・オレにどうしろと?

 「会長」
 オレはゆっくりと近付いて行った