「んー!」
 今、自分の身に何が起こっているのか見当がつかなかった
 公園に入って、皇兄に声をかけようとした途端、後ろから口を塞がれ、力強い腕で腰を抱えられ植え込みに引っ張りこまれた

 これって、誘拐なの!?それとも・・痴漢!?
 声さえ出せれば、皇兄に気付いてもらえるのに

 「こう・・・くぅ」
 口を塞いでいる手を避けようと両手を使うが、ビクともしない
 皇兄の後ろ姿がどんどん視界から消えようとしている

 皇兄・・お願い、後ろ見て! 私に気付いて!

 そんな思いも届かず、私の身体は完全に大きな植栽の影に隠れてしまった
 これでは声をあげない限り、皇兄には気付いてもらえない

 口は塞がれたまま、地面に下ろされた。身体はしっかり固定されている

 「んんっ!」

 ゾクリ
 
 痴漢の吐息が私の耳にふりかかって来た

 あ・・。恐怖と弱点の耳を攻められると、全身に力が入らなくなる

 ギュッと堅く目を閉じる。怖い・・怖いよ。皇兄

 
 「もも」
 私の耳元で痴漢はそう呟いた

 も・も?それにこの声、どこかで・・
 
 「声を出すんやないで・・」
 口に当てられた手が緩められ、私の身体がくるりと方向転換された

 「会いたかったで、もも」
 この関西弁もどきの口調、私の事をなぜか『もも』と呼ぶこの人

 「生徒・・会長さん?」
 ホッとした瞬間、瞳に熱いものが込み上げてきた。痴漢とかじゃなくて良かったよ

 「驚かしてしもて堪忍な。まさか、こんな所でももに会えるとは思ってなくて突然やったし、こうするしかなかったん・・ほへ・・今日はえろーカワイイカッコしてるやないか」

 会長さんは私の全身を上から下まで撫でるように眺めた

 「ホンマ、可愛いなぁ。あとでじっくり、明るい所でよう見せてや」
 
 「いえ私、そんな時間はないので」

 何か変な事で時間をとられてしまった。皇兄まだ公園にいるかな?
 その場から離れようとすると『今、出たらだめや』と静止させられた
 
 態勢を低くして歩く様に指示され、会長さんの後についてくるように言われ、皇兄の姿が見える場所まで移動した

 「あの・・?」

 「しぃ。黙って。今、うちの双葉とこーちゃんが2人っきりなんや」

 「えっ!?」

 角度を変えて見ると、皇兄の影に隠れて、沢村双葉の姿が現れた
 
 片手に携帯と、なぜか皇兄のシャツを持っている沢村双葉が・・・