五十嵐との話しに夢中になっていたせいで、背後の沢村双葉の存在に気付かなかった

 いったい何処からいて、どこまで話を聞いたのか?

 「あんた、いつからそこにいた?」
 思わず胸ぐらを掴みそうになるのをグッとこらえ、彼女を見下ろした

 「やだ、そんな怖い声出さないで下さいよ。聞かれたら困るお話されていたんですか?」

 「いいから、答えろよ」
 
 「まてよ、皇紀」
 苛立つオレを五十嵐が横から制した

 「ねぇ、双葉ちゃん。俺の皇紀に対する気持ちを何処から聞いていたの?それによっては俺、学校にいけなくなっちゃうんだけど」
 五十嵐はプクッと頬を膨らまし、子供の様な甘えた声で言った

 「五十嵐先輩って、今流行のBLっていうやつですか?」
 キャハハハと甲高い笑い声があがった

 「~ちゃんって聞こえたから、てっきりこの前の女の人の事かと思っちゃって」

 彼女の言葉に、五十嵐がオレに向かって『大丈夫』だとウインクした
 一先ず安心したが、この前の女の人というのが引っかかる・・

 「だから、今日の事は内緒にしてほしいんだ。俺だけならともかく、皇紀にも迷惑がかかるから」

 「五十嵐先輩ってどっちもイケる口だったんですね。分かりました、黙っててあげます。ただ・・今度は私が皇紀先輩と2人きりになりたいんですけど・・」

 『いいか?』と五十嵐はオレに目線で合図する
 それに答えて軽くうなづいた

 「じゃぁ俺帰るけど、双葉ちゃん、皇紀を誘惑しないでくれよ。男の俺の方が不利なんだから」

 軽く上に手を挙げると公園から去って行った
 
 悪いな五十嵐。色々迷惑かけて

 「皇紀先輩」
 沢村双葉が、腕を絡ましてきた

 「引っ付くな。それにお前なんでこんな所にいるんだ」

 「ここに来たら、皇紀先輩に会えると思ったからです。見事に予感的中。私ってすごいと思いません?」

 彼女は以前もここでオレに会った様な話しぶりだ

 「ねぇ、先輩。私にタバコ下さい」
 この公園に移ってから、タバコは吸っていないが、いかにもオレが持っているという事を知っている言い方だった

 ポケットからタバコを出して、一本彼女に渡す
 
 「マルボロ、吸ってるんですね」
 彼女はポーチからライターを取り出すと火を付けた