「家を出るってそう簡単にはいかないだろ。俺達、一応学生だし」

オレ達はビルの屋上を後にすると、目的を持たないまま歩き始めた

 「あぁ、だからお前に相談しているんだ。お前の親父さん、医学生の寮をいくつか持ってるだろ、一部屋空いてないか?お金は少しずつ働いて返すから」 

 「お金の事は気にしなくていいと思う。以前に皇紀の株の予想で儲けさせてもらったて喜んでたからな」

 以前に、五十嵐の親父さんと株の話で盛り上がり『勘』で株の予想を立ててみたことがあった

 それが見事に的中したとは聞いていたが・・

 「確か、皇紀の口座にも儲けの2割を振り込んでいるはず」

 「え?オレは予想を立てただけで、出資したわけじゃないぜ」
 通帳なんて、最近記帳したためしがなかった

 「予想も仕事の内、仕事に対する報酬はきちんと支払うべきもの。父さんならそう言うから、受け取っととけよ」

 返金したとしても、一度手元から離したものを受け取るような親父さんじゃなかったな

 「父さんには言っておくけど、自分の気持ち伝えないまま出て行くつもり?」

 「それが出来ないから、オレは逃げるんだよ。あいつにとって、オレは兄以上でも以下でもないって分かるから」

 「でも、言わなかったら一生、兄のままじゃん・・いいのか?」

 「あぁ。それでもオレを男として見てほしいとは、あいつには言えない。言ったらきっとオレと両親の間で苦しむ事になる。昔から家族想いの奴だから」

 空き缶をゴミ箱に放り投げ捨てる

 「でもさ今日、彼氏と出かける約束を蹴ってオレと一緒にいたいって言ってくれたんだ。こうやってキュってオレの事抱きしめてくれてさ」

 この上なく、幸せだった
 
 今、晶の事を話す自分がすごくガキみたくなっているだろうが構わない

 「一時でもオレの事を選んでくれて、もう十分だって思った。今はそれで満足でも、このまま傍にいたらオレはあいつを犯すだろう。その前に出て行くんだ」 

 いつか妹として見れる日が来るまで、笑って話せる日が来るまで
 そんな日が来るのか、今は想像もつかないけれど

 「そこまで皇紀に思われている子って、名前なんていうの?」

 「あきら」

 「晶ちゃんに会ってみたいな」


 「その人ってこの前の女の人ですか?」
 五十嵐の声に混ざって背後から女の声がした

 五十嵐と同時に後ろを振り向くと、沢村双葉が立っていた