血・・・何の事だ?

最初、何を聞かれているの解からなかったが

晶の温かい指と視線がオレの口元に注がれている事だけは確かだった

その後に「ん?」という疑問符を抱いた晶は続けた

「なんか皇兄から甘い香りもする。」・・と

フラッシュバックのようにオレの頭の中で昼間の出来事が流れてくる

公園のあの女の赤い唇と、甘くキツイ香水の香り

そして・・忌まわしいキス

掴んでいた晶の腕を離し、口元に手を当てる
 
血・・なんかじゃない
あの女の口紅だ
キスした時の残害が残っていた

見られた?晶に 気がついたか 晶・・?

好きなのに、やっと、伝えようとしたのに・・・・どうしてオレは・・

オレは晶の前だと、ただの弱い男になる

 
「皇兄 やっぱり気分よくないの?」

違うよ。好きなんだお前のこと

「薬 持って来ようか?」

何飲んでも、治らないよ晶

窓の外の街頭の光が、晶の不安そうな顔をより引き立たせていた

「悪いけど・・少し頭が痛い。二階で休むから、母さんにそう言っといてくれる?」

早くこの場から立ち去りたい
その気持ちがオレにそう言わせていた

「うん。わかった。落ちついたら、何か食べるもの持って行くね」

晶がリビングに立ち去った後、オレは静かに洗面所へ向かった

鏡に映る自分の姿
口元の右端に口紅が付いていた

「何やってんだか 」

勢いよく水を出し、痛いくらいに口元をこすり洗い流す

次に『甘い香り』のするシャツをボタンもろとも引きちぎった

「くそっ!」

どうしようもないもどかしさだけが今のオレを支配していた