タバコと一緒に五十嵐から渡されている携帯も持ってきた
 
 入っているのは五十嵐の携帯番号のみ

 ピッと親指で番号を選んで押して、耳に当てる

 TRRR・カチャ

 ワンコールで五十嵐は携帯に出た

 「皇紀?」
 電話の向こうの五十嵐は疑問系の声だった

 「お前出るの早いな」

 「よく言われる。テレクラでも十分通用するでしょ」
 オレだと確認できるや否や、いつもの五十嵐の口調に戻った

 「皇紀からかかってくるのって久しぶり過ぎて、イタ電かと思った。なんかあった?」

  怪しい電話だと思った割には、躊躇なく出る手速さなのだが・・怖いモノ見たさが上回ったのだろう

 「今、お前の家の近くまで来ているんだが、出て来れないか?」

 「なーに、甘い声を出してんだよ。『僕』に会いたくなったの?」

 「そ。会いたくなったんだよ。『潤』に」

 五十嵐の家の門に寄りかかり、甘えかかる様な声を出し、携帯の電源を切る
 
 黒い柵の門の向こうから、肩が大きく開いたシャツとジーンズを着た五十嵐が走ってきているのが見えた

 「悪いな。『潤』」

 「ハァ、ハァ、こう・・き、お前酔ってるのかよ」
 柵に手をかけ、五十嵐は息を整えた

 「オレはいつも以上に素面だが・・」

 「だって、お前・・滅多にかけない携帯から電話してくるわ、甘えた声は出すわ・・」

 五十嵐は、言いながら顔を赤く染めた

 「オレ相手に赤くなるなよ。お前、男も好きなのか?」

 「違う!!俺はいたってノーマル!!」

 「知ってる。冗談だろ?」

 「皇紀に言われると、そういう素質もあるんじゃないかと、、一瞬でも考えてしまった・・」

 時々こいつは、人の言葉をストンと嵌めてしまう所があるんだよな
 ふるふると頭を振る五十嵐の様子に微笑んでしまう

 「何、笑ってんだよ、皇紀」

 「いや、別に。ちょっと歩かないか?」

 夕日に向かって、並んで歩き出す
 ポケットからタバコを取り出し、咥えると火をつけた

 風のない今日は、タバコの煙は一本の線となって、空に消えていく
 
 カチッ。五十嵐のタバコにも火を付ける

 「サンキュ。で話があるんだろ。まさか『僕』と散歩する為だけに呼んだわけじゃないよね」

 五十嵐の親父さんが所有するマンションの屋上にオレ達は足を運んでいた
 白い柵に身を乗り出しながら、地平線に沈む夕日を見送る

 夕日に染まった空の色は、薄いピンク色
 まるで、晶の小さな唇の色みたいだ

 「オレ・・好きな奴いるんだ・・・」
 ジュッとタバコを踏み消し、前髪をかき上げた

 目を閉じると、晶の姿が思い浮かぶ
 
 オレは、晶のどこが好きなんだろう・・・?
 
 うまれたての様なほんのりした桜色の唇

 オレを捕らえるくっきりとしたオニキスの様な瞳

 くるくると変わる表情に、『皇兄』って呼ぶ、語尾がピンクの鼻へ抜けるように小さく着地する声も・・

 晶の『兄』である現実に戻される声ですら、愛しい