水色のワンピースに着替えに行ったっきり、晶はなかなか戻って来なかった

 廊下に出ると、玄関で晶が母さんに一方的に小言をいわれているのが聞こえた

 内容は聞き取れないが、だいたい何を言われているのかわかる

 オレのせいだ

 近付かないって決めたのに、抑えが効かなくなって、晶を惑わせてしまった

 一瞬だけでも、オレの方を選んでくれただけでもう十分

 あいつに家族は捨てられない

 『私、将来お父さんとお母さんの様な家庭を作りたいな。見ていて恥ずかしくなるくらいラブラブな夫婦。子供も、皇兄と私みたいに男の子と女の子』
 幸せそうにそう話していた晶の顔が浮かぶ

 優しいからな、あいつ
 オレと母さんの間に挟まれて困っているのがわかる

 どちらも傷つけないようにしようと必死に考えてる


 晶と母さんの会話が途絶え、階段を駆け上がってくる音が聞こえた

 スカートの裾を持ち上げ、走ってくる。そして、裾を踏んで転びそうになった

 「きゃっ」

 「危ない」

 間一髪で晶の身体を拾い上げた

 「気をつけろ、ここから落ちたら、痣だけじゃすまない」

 晶の身体を床に下ろし、痣のついた額を撫でる

 「うん。ありがとう皇兄。それでね・・その・・」

 晶はオレにどう話を切り出そうか戸惑っている様子

 「行って来いよ。母さん怒ってるんだろ」

 「ごめん・・なさい」
 晶はうつむき、目を伏せた

 「いいよ、謝らなくても。さっきのお前の言葉だけで、オレすごく嬉しかったから、もう十分」

 もう、オレのせいで悲しい顔をさせたくない

 「皇兄。私、絶対19時までに帰って夕飯作るから、一緒に食べよう。約束」

 そう言って、強引に指切りをさせられた


 ごめんな晶。オレ、その約束守れない
 守っちゃいけない
 オレはお前のためだったら、何を捨てても構わない。たとえ家族でも・・だ
 けれど、お前に家族を捨てて、オレの元に来いとは言えない 


 時計は18:30になろうとしていた
 晶との夕飯の約束まであと、30分

 オレはガスレンジの火を止める

 鍋には晶の好きなポテトグラタンを作った

 メモ用紙に
 『急用が出来て出かける事になった』と書くと、晶の座るテーブルの上に置いた