「約束・・か」

 ほんの少しまで、晶と繋がっていた小指を自分の頬に当て、ぬくもりを確かめる

 あいつ、強引に夕飯を一緒に食べる約束として、指切りをして行ったな

 あの後晶は、母さんに引きずられるように連れて行かれた

 
 その前は、確かにオレの胸の中にいたんだ



 あの時、バレーボールで顔面に痣を作った晶を見て、大きく溜息をついた
 
 せっかく、白いきれいな肌なのに、もう少し自覚しろよ

 「ちゃんとすぐに冷やしたのか?」

 「一応」

 本当か?メイクで隠せるくらいだから、そんなにひどくは・・

 「もっと、良く見せてみろよ」

 晶の肩を掴み、優しく顎を持ち上げる

 「う・・。お願い、もう見ないで。酷いのわかってるから」
 瞳に少し涙をためて、晶はオレの手から逃れようとした

 「確かに・・酷いな」

 バレーボールでここまでなるものなのか?
 でも昨日、部屋に閉じこもった理由がわかったよ
 『出て来なかった』のではなく、『出て来れなかった』んだよな

 「ふふっ」

 そして、オレには見られたくなくて、必死で抵抗しようとしている

 カワイイなぁ

 晶がこんな痣をつけているのに、思わず笑みがこぼれた

 そんなオレに晶はプクッと頬を膨らます
 
 ヤバ・・そんな顔されたら抑えられなくなる

 「カワイイよ。晶」

 「え?」

 ポカンと口を開けて晶は耳を傾けた

 「化粧しなくても、痣なんて隠さなくても、お前カワイイよ」
 晶の前髪をかき上げながら、頭をなでる

 「こ・・皇兄・・」

 晶の首から顔全体にかけて、波が押し寄せるように赤く染まって行った

 照れてる。照れてる
 ほんとうにカワイイ奴。あぁ・・

 「このまま、お前を連れ去りたい」

 自分の願望が抑えられなくなった瞬間だった
 
 晶の身体を優しく抱き寄せる

 離したくない。離れたくない

 晶はもぞもぞとオレの胸の中で顔を動かし、大きく息を吸った

 「うん。私を連れてって、皇兄」

 「!!」

 ささやくように、でも発音ははっきりとしていた

 お前、本気で?

 聞き返そうとした時、反対に晶の腕が背中に伸びて、オレの身体が抱きしめられた



 
 その時オレは、もう死んでもいいと思ったんだ