どうしてだろう。お化粧、似合ってても、似合わなくても私の事で答えてほしかったのに

 なぜ、狩野先輩の名前が出てくるの?

 「気合なんてそんな・・私だって好きでしてる訳じゃないもん。だけど今日は・・今はせざる終えなくて、化粧で隠さないと、皇兄に会えないから・・」

 同じ家に住んでいるのに、すれ違いで皇兄に会えない
 やっと会えると思ったら、ケンカして痣を作って、この始末だし

 私は両手で顔を覆い隠した

 「あ・・晶?」
 私の様子に皇兄は心配そうに名前を呼んだ

 「お・おいっ」

 私は椅子から立上がり、皇兄の方を振り向いた

 「えへっ、今の冗談。前からお化粧に目覚めようかなって思っていたの。それなのに皇兄、何も言ってくれないからちょっとウソ泣きしちゃった」

 命一杯、笑って、おどけて言ったが、皇兄の目は長く見ていられなかった

 このままいたら、鋭い皇兄の事だ。痣に気がついてしまう

 「髪、ありがとね。皇兄」
 早く立ち去らないと。白いポーチを拾い上げ、うつむきながら皇兄の横を通り過ぎた

 「待てよ」

 皇兄の長い指が、私の腕に絡んだ

 「な・・に?」

 「前髪、後ろはセット出来たが、前髪を整えていない」

 な・・。前髪を弄られたら、痣が分かってしまう

 「えー。いいよ」

 「だめだ。オレは完璧主義なんだ」

 完璧主義なのは知ってるけど・・今はまずいの・・

 「前髪は自然な流れを出したいから、手櫛でやる」

 私の気持ちも知らず、皇兄の指が伸びてきて、前髪をすくった
 
 こうなったら、見つからない事を祈るだけ。どうか気付きません様に・・

 「くすぐったいよ」

 「我慢しろ」

 我慢するけど・・もうそろそろこの辺で・・いいんじゃないかなーなんて

 「皇兄?」
 皇兄も考え事をしていたらしく、手が止まっていた

 「あ・・悪い。よし、出来たぞ。ん?」
 
 はぁ、無事終了だね
 安心したのもつかの間、皇兄の目線が私の額に注がれていた

 「どうした?これ」
 
 バレた!
 明らかに痣の方を指差している

 「こ・これは」
 
 「お前、ちょっと他も見せてみろ」

 「あ・・その・・」

 やだ。やめて
 皇兄の両手の親指が私の顔をなぞり、左頬と顎の痣を完璧に見つけられた瞬間だった