「あ・・晶?」
 化粧で隠さないと、その後何て言った?

 晶は両手で顔を隠しながら、肩を震わせていた
 
 泣いてる?
 オレが泣かせたのか?
 でも、泣かせた理由が分からない

 「お・おいっ」
 
 晶は椅子からスッと立上がると、後ろにいるオレの方に振り向いた

 「えへっ、今の冗談。前からお化粧に目覚めようかなって思っていたの。それなのに皇兄、何も言ってくれないからちょっとウソ泣きしちゃった」

 晶はにっこり、オレに笑いかけたが、すぐに目線を反らした

 口元は笑っていたが、目元は笑っていないじゃないか
 何で、そんな表情をする?

 「髪、ありがとね。皇兄」
 
 「待てよ」

 床のポーチを拾い上げ、オレの横を通りすぎる晶の腕を掴んだ

 「な・・に?」

 何って、思わず腕を掴んでしまったが何を言えばいいのか?
 えーと。
 あぁ、そうだ!

 「前髪、後ろはセットが出来たが、前髪を整えていない」

 「えー。いいよ」

 「だめだ。オレは完璧主義なんだ」

 咄嗟に思いついたのがこれ。自分でも何を言ってるんだか

 「前髪は自然な流れを出したいから、手櫛でやる」

 晶の額から、指の間に絡ませるようにすくって梳かす

 「くすぐったいよ」

 「我慢しろ」

 はぁ、ついつい命令口調になってしまう

 このままこうして、一緒にいられたら・・
 
 「皇兄?」

 「あ・・悪い。よし、出来たぞ。ん?」
 ゆっくり晶の前髪から手を離そうとした時、額になにか汚れ?がついていることに気付く

 「どうした?これ」
 晶の前髪をかき上げる。右側の額に10円玉ぐらいの真新しい痣がついていた

 「こ・これは」
 
 「お前、ちょっと他も見せてみろ」

 「あ・・その・・」
 どもる晶を無視して、顔の表面を親指でなぞった
 
 化粧のせいでオブラートに隠されているが、左の頬と顎の部分にもうっすら痣がある

 「バレーボールの授業で、顔面でレシーブしちゃって」

 晶はオレの手から逃れると、溜息をついてうつむいた

 この痣を隠すために、した事のない化粧をし、前髪もおろすと言ったわけか

 「はぁ、まったく」
 
 「皇兄には、見られたくなかったのに。やっぱり変だよね」
 
 消えそうな声でつぶやく晶に、オレはゆっくりと口を開いた