本当は音を立てないで玄関に入る予定だった

ガタンと音をたてて、『しまった!』と思った時にはすでに
パタパタとスリッパの音がこっちに向かっていた

「皇兄、お帰りなさーい」
  
晶の声が玄関に響く

玄関の電気も付いていないし、声も出していないのに、最初からオレだと思い込んでいる

「あぁ」

晶の出迎えにオレはそれしか言えなかった
いつも聞きたいはずの晶の声が、罪の意識か重く感じる

晶はオレの目の前に立つと、独り事のように呟いた

「ごめん、暗いね。電気、電気と」

手探りで電気のスイッチを探そうとする晶にオレはこのままで良いと言った

自分がどんな表情をしているか、自分自身分からなかった

「でも・・」

「いいって言ってるだろ!」

こんな事言うつもりはなかったのに、瞬間的に怒鳴っていた

「ご・ごめんなさい」

晶の声はさっきより5倍近く小さくなっていた

怖がらせた・・・

晶は悪くない

悪いのは、妹を好きになったオレの方

そんな事わかっていたはずなのに・・・

誘われるがまま腕を伸ばし、固まった晶の頬を指先で触れる

「お前って、悪くもないのに謝るのな。それとも謝らなきゃいけない事したわけ?」

晶の頬の体温を感じながら、言葉はますます冷たい口調になった

「そんな・・」
何か言い出そうとした晶の下唇を親指で軽くなぞる


「ひゃっ」
晶はビクッと肩を震わせ、目を閉じた

耳の後ろを触れると決まって晶はこの表情になる

「やめてよ。ここ苦手なの知ってるくせに!」
晶は首を振ってオレの手を払いよけた

知っててやってるんだよ

悲しく怯えた声を聞くより、怒った声の方が数倍ましだ

「夕飯できてるんだよ。待ってたんだから早く上がって」

オレはリビングに戻ろうとする晶の腕をすがるように掴み、自分のもとに引き寄せていた

行くな・・行かないでほしい
高ぶる感情がオレにそうさせていた

「皇兄・・どこか悪いの・・?」

あぁ。もうずっと 晶という恋の病にかかってるんだよ

この気持ちをお前に伝えたら・・

「あ・・きら・・・ オレはお前が・・」

「皇兄・・ここ血がついてる。痛くない?」

血・・・?

心配そうにオレの顔を覗きこみ、晶は優しくオレの口元に触れた