カシャカシャカシャ 金属と金属がぶつかる音がする
リズミカルなその音は、もう何回も聞かされている音だったが、寝起きのオレには余計に頭に響いた

「いい加減にしろ!」

勢いよくドアを開けると一瞬音は止ったが、またカシャカシャと始まる
「皇兄おはよ」
水色のショート丈のエプロンをまとい、屈託のない笑顔
そこには・・ひとつ下の妹 晶(あきら)が立っていた

最近晶はお菓子にはまっているらしく、毎週日曜日になるとお菓子作りをしている
金属音は卵白を泡だて器でかき混ぜている音だった

「なぁお前、歩きながらメレンゲ作るのやめろよ」

台所は一階、オレの部屋は二階
台所に止まってメレンゲを作ることが出来ない晶は、泡立てながら二階まで歩いてくる。そして決まってオレの部屋の前で作業するのが日課になってるらしい

「もうちょっとで完璧なメレンゲができるの!」
晶は最後の仕上げとばかりにかき混ぜる腕の振りが速くなった

一生懸命な晶の姿にオレの胸が痛くなる
文句を言うオレを、少し頬を膨らませ、大きな瞳で睨む姿
カワイイ・・・

カワイイ・・・と素直に思う

オレは晶が好きだ
いつからこんな気持ちが生まれたのかは解からない

幼い頃から好きと言う気持ちが少しずつ積み重なって、膨らんで来た様に思う

光源氏が幼少から自分好みの女にすり込んで行った様に、晶という存在がオレの心に『好きだ』という気持ちをすり込ませたに違いない

 
「出来上がり♪」
晶は得意げに叫ぶと、ペロッっとかわいい舌をだして上唇を舐めた

何かを成し遂げた時の晶の癖

桜色の小さな整った唇
今すぐ抱きしめて、息が出来ないくらいキスがしたい

小さなしぐさにも欲望が駆り立てられる

・・・ダメ・・だ。・・オレ

「母さん!母さんからも晶に注意してくれ。毎回あの音で起こされるオレの身にもなれって!!」

半分呆れて、半分怒り口調でオレは言った

何か別の事を言って、自分自身をごまかさないと身が持たない