緋女を呼びに行くと緋女は待ってましたと言わんばかりに着いてきた。珍しくお腹が空いているらしい。

「緋女様、今日は体調が良さそうですね」

「あぁ、そうだな。今日は比較的元気だ。チトセはどうした?顔色が悪いな?」

「いえ、すこし寝不足気味で」

「そうか?食事の間休んでいてもいいぞ?」

緋女の心遣いは嬉しいが、理由は口からでまかせだし緋女の近くにいた方が気が紛れる。

「いいえ、ここで緋女様をおひとりにしたら葉月に上手いこと言って野菜を食べないと言い出すのでいけません」

「……否定はしない」

野菜嫌いの緋女が野菜を食べないと困るのでしっかりとその道を塞ぐ。

「殿下おはようございます」

広間に行くと緋女の席にシェフが食事を用意して待っていた。

「殿下、殿下が食べたがっていたので今日は和食に挑戦してみました」

シェフの向山 葉月が緋女に笑いかける。葉月はいつも緋女の顔色を見ているため今日は元気そうだと判断したようだった。

「ありがとう、葉月」

緋女が席に向かうので椅子を引く。

「ありがとう、チトセ」

「とんでもございません、緋女様」

緋女は必ず礼を言う。チトセも毎回同じ言葉を繰り返す。

今日の朝食は和食。お米に、もやしとじゃがいものお味噌汁、焼き鮭。…お米はともかくお味噌汁と焼き鮭は緋女は苦手だ。

「魚は苦手だ。野菜も基本食べたくない」

「緋女様、葉月にものすごく失礼です」

「殿下、私は大丈夫ですけどちゃんと朝食は召し上がってくださいね」

葉月は心配そうに緋女に声をかけ厨房に戻った。

緋女はやっぱり渋い顔をしている。
仕方が無いので緋女をひょいと持ち上げた。

「うわぁぁぁ!?」

ストンと膝に緋女を乗せる。

「チトセ!?またか!」

これもいつものことだ。野菜や果物、海鮮、甘いものなど嫌いな物が多い緋女はなかなか全てを食べられることは少ないのでこうやって膝に乗せてたべさせる。
着替えやお風呂は恥ずかしがらないのに膝に乗るのは恥ずかしがるから不思議だ。


どうにか緋女に全てたべさせ、緋女にコーヒーを出す。

緋女がコーヒーを飲み終わり、部屋戻ることにする。椅子を引くとコンっと何かが落ちた音がする。
緋女の足元に、グリーンのブローチが落ちた。