「おはようございます、緋女様」

「…おはよう、チトセ」

柔らかく笑って目覚めた緋女の背中を支え、身体を起こすのを手伝う。

「緋女様、お召しかえを致しましょう」

いつも通りクローゼットから真っ赤な軍服を用意する。緋女の服に手をかけるが彼女は特に気にした様子もない。

緋女の子供の頃から着替え、お風呂、食事など普通なら執事が手伝わないことも全て緋女はチトセを信頼し任せている。炎の国の王、海神 色人と炎の国の王妃、海神 美妃もチトセに任せれば間違いないと全てを任せている。
そのため、緋女とチトセはいつでも一緒だ。

「チトセ、今日は仕事はあるか?」

「はい、緋女様関係の書類が溜まっておりますのであとで一緒に片付けましょう」

「あぁ」

緋女の仕事も秘書として手伝っている。

「緋女様、少しだけ待っていてください。朝食時にまたお部屋に伺いますね」

自室に忘れ物をしたのを思い出し、執事長室に入る。すると、いつもと雰囲気が違う気がして、棚の資料を見る。資料の順番がめちゃくちゃになっていて、緑のブローチが…見当たらない。

「……っ……。どこに行った!?」

我を忘れ部屋を飛び出した。何人かの使用人とすれ違うが全員が遠巻きに見てきた。それもそのはず、チトセの顔はいつになく必死でさらにいつもは閉じているはずの目の下の第3第4の目が開いているのだ。

「…………なんでこんなところに」

廊下の隅に落ちているのを見つけ、拾う。大事にハンカチに包み、懐中時計で時間を確認し、緋女の食事の時間だと気づく。忘れ物は諦めて、緋女の元へ急いだ。