海神王宮の執事長室。緋女が眠ってから残った職務を終わらせ、毎日の日課になっているエメラルドグリーンのブローチの手入れを終える。

「……そろそろ休まなければいけませんね」

時間を確認しようと壁に目を向けるとカーテンの隙間から真っ赤な月が見えた。今日の月はいつもより綺麗に見え、緋女を思い出す。小さな緋女の笑顔が脳裏に浮かぶ。

「緋女様……緋女様はとても素敵な【王子】になりましたね……。本当に立派な……【王子】に……」

ブローチをぎゅっと握りしめ、月を見つめながら言う。ブローチを月に透かすと緑の中に炎のような淡い赤が揺らめく。

「……まだ、渡せないな」

小さく呟いてブローチをいつもの定位置に戻した。