「チトセ!私決めたわ!」

小さな緋女がワインレッドのドレスを翻し、斜め後ろの執事、チトセに笑顔を向ける。無垢な笑顔はとても柔らかく、チトセも思わず頬を緩ませる。

「はい、どうなさったのですか?お嬢様」

チトセが聞くと緋女は胸を張ってチトセに言う。

「私、将来チトセと結婚するわ!」

「おや、結婚ですか?」

チトセが本気で少し動揺すると緋女は深く頷く。

「お父様とお母様にお聞きしたのよ。好きな人とずっと一緒にいるにはどうしたらいいの?って。お父様とお母様は結婚したからずっと一緒って言っていたわ。私はチトセが好きだもの。結婚したらずっと一緒よ」

無垢すぎる笑顔にチトセは戸惑いつつ微笑む。

「なるほど、光栄です」

チトセがそう答えると緋女は満足そうに頷き、チトセに手を出すように言う。チトセの手に緋女の小さな手が乗る。

「これ。持っていなさい」

緋女がチトセに渡したのは小さなグリーンのエメラルドの着いたブローチ。緋女の6歳の誕生日に緋女の父、海神 色人が渡したとても大事なものだ。

「お嬢様、でもこちらは旦那様の……」

「そうよ、お父様からのプレゼント。だから大事に持っていて、私がチトセと結婚できる、立派な【王女】になったら渡してプロポーズして頂戴」

「……かしこまりました。お嬢様が必ず素敵な【王女】になるまでわたくしがお世話しお守り致します」

そうチトセが言うと緋女は花が咲くように笑った。