「………ばかじゃん」

なんスーが冷たい声で言う。

「失礼っすね」

「いやばかでしょ、どんな勘違いなの。さすがに真性ドジの俺でもそれは無いわ」

ドジの自覚はあったらしい。

とりあえず廊下での出来事は多分勘違い。でも、厨房で楽しそうにしていたのは未だに分からない。

それを言うとなんスーも困ったように笑う。

「それは──、いや、しらない」

絶対知っているが口を割ってくれそうな雰囲気はない。

「おらち…透李っちに好かれてるんすかね?」

あむはふっと目を伏せる。

「好かれてないととっくに振られてるよ。それにイリスはあむの妹でしょ?もし浮気するとしてそんな危ない橋さすがに渡らないでしょ」

それはそうだ。イリスに手を出したとして、あむとイリスにバレたら確実にどちらとも破局だろう。透李が浮気するとも思えないし、やっぱりなにか…勘違いなのか?

「厨房にいくっす」

「はい、行ってらっしゃい。俺も仕事に戻るね」

2人で共にカウンセリングルームを出る。ドアを閉めて、なんスーが歩き出すと同時に何も無いのに躓き、あむに抱きついてきたのでぶん殴ろうとすると、そこに氷麗が通りかかり、一瞬時が止まり駆けて行ってしまった。…同じ修羅場が起こりそうである。だからといって情けはかけずしっかり殴った。