透李とあむの距離はどんどん離れていた。

そもそも透李は元々そんなにあむにベタベタするほうじゃないし、朝は弱いから透李からあむの部屋に起こしに行くことは無い。あむは透李の部屋に毎日起こしに行くのは仕事な訳では無いから行かなくなってしまえばそれまでなのだ。

そもそもあむが話を聞いてくれないから弁解も、喧嘩すらすることが出来ない状態だ。

「あむ、我が話を…」

「……っ」

話しかけようとしたら走って逃げてしまう。


あむと話せないまま、それでも透李はあむのためにイリスとケーキを作る練習を続けていた。あむの好きなケーキはいちごのショートケーキ。はじめは失敗ばかりだったが、何度もやっていくうちに、食べられ無いものが出来ることはなくなった。

「味気ないな…」

「ううん…甘さが足りないですか?元々草ヶ谷さんもお姉ちゃんも甘党ですからもう少しお砂糖を…」

「違う」

生クリームに砂糖を足そうとしたイリスを透李が止める。

「蓮糸あむ、奴の機嫌が悪いだろう」

「あ……そういうことですか」

透李の言った味気ない、はケーキの味ではなく、この状況のことだった。イリスと透李が近づいたのもイリスは心配しただけで悪い訳では無いし、あの状況であむが透李もイリスも責めず自分から離れようとするのはあむの優しさだ。透李とイリスが想いあっていると勘違いし、身を引こうとしているのだ。

「…草ヶ谷さん、お姉ちゃんのことすきなんですね」

無言の状況を少しでも打開しようとイリスが聞くと透李はイリスに目を向け珍しく優しくふっと笑う。

何も答えはしないがその笑顔が透李の気持ちを物語っていた。

「もう1回練習しましょう!」

イリスが元気よく言うと透李も頷き、ケーキを作る用意をしはじめる。

2人で真剣にケーキを作っていると、厨房に足音が近づいて来たが2人は気づかなかった。