海神王宮で新人メイドをしている蓮糸 イリスは久しぶりに掃除のあと時間が出来たので厨房にいた。彼女はお菓子作りや料理をするのが大好きだ。……何故か爆発するが。
この間なんて執事長の目の前で執事長と全く同じ工程で同じ物を作り、念には念を入れて執事長に確認までしてもらったのに執事長は難なく成功。イリスは爆発した。
今回は何を作ろうかと思案していたら厨房に珍しい人が入ってきた。

「草ヶ谷さん!?」

「紫煙の十六夜。貴様の力が必要だ、手を貸せ」

「え!?どうしたんですか?」

聞くと、イリスの姉、あむの誕生日が近いから、手づくりケーキをあげたいが作り方が分からない。シェフはお菓子作りには精通していない、執事長に聞くとからかわれる、メイド長に聞くとクオリティが高すぎる、緋女の遊び相手に聞くと余計なもの入れて話にならないから消去法でイリスに聞きに来たらしい。消去法なんて失礼な話だ。イリスは妹なのだからいくらでも協力するのに。

「いいですよ。一緒に作りましょう。……多分大丈夫です」

彼にそう言うと彼は安堵した表情になった。

「感謝する」

透李はそれだけ言うとイリスのケーキの作り方の説明や注意事項を真面目に聞き、とりあえず試しに作ってみることになった。しかし、イリスがいるからなのか彼が初心者だからかはたまたどちらもが原因なのか分からなかったが失敗し、イリスと彼は少し汚れてしまったので自室に一旦戻ることにした。

その過程で途中、透李が目を擦ったのでなにか入ってしまったかと顔を近づけた。

「大丈夫ですか?なにか入ってしまいました?」

「やめろ、紫煙の十六夜。問題ない」

そう言われたので離れると、透李が固まったので自分も透李の目を向けている方に目を向ける。すると……姉が泣きそうな顔で自分達を見ていた。

イリスと透李は決して変なことはしていないがその顔を見て悟った。……なんか勘違いしているぞ、と。動揺し、少し大袈裟なくらい飛び退いてしまった。

「お姉ちゃん」

顔がひきつりつつ、弁明しようと彼女に声をかけると

「あむ」

と、透李もいつになく震えた声とぎこちない顔であむを見ていた。


あむはそんな自分達を見てさらに顔を歪めると、何も言わずカウンセリングルームに入り、ガチャ!と音を立てて鍵を閉めた。

その後焦って透李と数回コールしたがどちらの電話にも出てくれなかった。