部屋に戻るとあむは少し気まずそうにベッドに座って待っていた。僕が戻ってきて少しだけ安堵した顔をした。

「そこに直り寝巻きを取り払え、貴様の流汗を流してやろう。」

ベッドのサイドテーブルにお湯を置いてタオルを絞る。

「え、と……お、お願いします」

あむは目を逸らして寝間着を脱ぎ、胸を隠すように寝間着を抱いた。背中側を僕に向けてくる。背中から出ている女郎蜘蛛特有の足にも気をつけながら背中を拭いていく。発言や行動は大人っぽいところもあるがやっぱり身体は小さくて、可愛いなと思った。

「前は、自分で」

あむがそう言って僕からタオルを受け取るが、身体を起こしているくらいが限界のようで、手をベッドから離すとフラフラしてしまっている。

「全く、我がやってやるから無駄な力を使うな」

「うぅ…すみません…」

あむがタオルを渡してくる、が……前を、拭くのか。自分で言っておきながら割と凄いことを言ったことに気づく。しかし、ここでやっぱり辞めるって言ったら下心があるみたいだし、あむが信用してくれてるのに失礼だよね。

そう自分に言い聞かせ、せめてもの抵抗として、背中からそっと抱きしめるようにして前を拭く。お腹周りから脇腹を拭き、胸元に到達した時に

「んっ……」

変なところに当たってしまったのかあむが甘い声を漏らした。

「すま──」

さすがに謝ろうとしたらさっきと同じ空気を感じた。…あぁ、これは逆らえないやつだ…。

再びあむに押し倒された。

「付き合ってるんだし、少しくらい食べてもいいっすよね?」

…コクリと頷くしか出来ない。頭ではためだと分かっているが、気持ちよくなるならそれでもいいかと思ってしまう。

「女郎蜘蛛と付き合ってるんだからそれくらい覚悟してるっすよね?」

頷く。

「大丈夫、すぐに気持ちよくなるっすから」

頷く。

「力、抜いて」

頷……く。

「なんで泣いてるの…」

いつもの口調と違うあむに違和感をおぼえるより先に、あむの言葉を飲み込むのに時間がかかった。泣いてる?僕が…?

「僕…」

「………え?」

「僕、人に必要とされることなんてないと思ってた。家から出る時も母さんは止めず姉さんも一瞬引き止めたものの送り出されて…」

故郷の話をこぼしつつ、身体はあむを求めている。

「学園から出たときも、仲のいい友達には何も言わずに出てきてしまった。こんなどうしようもない僕と仲良くしてくれたのに出てきて以降連絡出来ていない」

あむの腕を手でなぞる。

「でもね、ここに来て、あむと出会って、あむは僕を好きになってくれた」

あむの目を見て優しく微笑む。

「あむと付き合って、すごく幸せだよ。あむといたいからもっと頑張らなきゃって、緋女様をお護りして、この幸せを保たなきゃって…そう思ったんだ、だから」

そっと、あむを抱きしめた。

「僕はね、これで充分だよ」

あむから妖しい雰囲気がすっと抜ける。

「透李っち……今、おらち、すごく失礼な──んっ!?」

あむの言葉をキスで塞ぐ。

「可愛いあむも、優しいあむも、さっきの綺麗で妖艶なあむも大好きだよ」

あむはポロポロと涙を流す。僕とあむはしばらく一緒に泣き続けた。