僕が声をかけるとあむは大丈夫と言いながらベッドに倒れ込んだ。全然大丈夫じゃないらしい。

「あむっ──!……どうしよう。フログメント……」

どうしていいか分からず戸惑ってしまい、肩のフログメントに声をかける。

『医者を呼べ』

フログメントの素早い判断に感心しながら、僕は海神王宮から飛び出した。
抜け出した同様なので執事長が僕の名前を呼んで怒っていたが今の僕には聞こえなかった。


僕を見たときと同じ医者を連れてきたら彼はあむの病状を見る。前の僕と同じでちょっとキツめの風邪と判断したようだった。寝不足気味だったのに連れ回してしまったし、無理をさせてしまったのかもしれない。

あむが辛そうにしているので、しばらく一緒にいることにした。

「んん………」

時々寝返りを打つあむがどこかで起きるのではないかと思い目を離せない。

「透李っち……?」

あむがうっすらと目を開けてそう呟いた。自分の部屋に僕がいるというのが信じられない様子だ。

「…目覚めたか…全く貴様という奴は、我が眼前でそのような姿を見せるな」

普通にめちゃくちゃ心配だけどそんなこと言えず、いつも通り悪態をついてしまう。するとあむが僕に手を伸ばしてきた。

「…っ…貴様、なに、を─」

咄嗟にその手を振り払おうとしたがあむはそのまま僕の手を掴む。いつもの控え目なあむからは考えられないほど強い力で掴まれ手首に痛みさえ走る。次の瞬間には僕の眼前に顔を蒸気させた苦しそうであり艶やかで色っぽいあむがいた。僕の背には暖かいベッドが当たっている。
押し倒された…?と理解するのに時間はかからなかった。

「あ…む……っ……」

話すどころか名前を呼ぶのも危ない。僕が口を聞く度に彼女をどうにかしてしまいたいという衝動に駆られる。
…女郎蜘蛛の能力なのかもしれない。熱で力をコントロール出来なくなっているのかも。

「おい、やめろ蜘蛛女」

冷たくそういい放つと、あむはピタリと止まり、僕の股に跨ったまま益々顔を蒸気させ

「ご、ごめんなさい〜!」

と、僕から飛び退いた。
僕ははぁとため息をつきつつ、助かったと思いながら部屋を出る口実を考える。戻って来ることにはなるだろうが1回落ち着くべきだ。

「どうやら本当に不調のようだな…仕方ない…その流汗、我が流してやる、少し待っていろ」

僕はそういって、お湯と汗を拭くタオルを取ってくるために部屋を出た。


「はぁー……危なかった」

周囲に聞こえないように静かに呟いて僕はお湯を用意してくれるであろう新人のメイドさんを探した。