「昼はすみませんでした」

「え?」

「俺、ドジなんです。前も悪気なく緋女様に抱きついてしまって、執事長に殺されるかと思いました」

押し倒したことを謝っているのだと理解するのに少し時間を要した。もう全然怒っていなかったし、凍らせてしまったのは自分だし、なにしろ今の彼からそんなことをする雰囲気は感じられない。本当に悪気はなかったのだ。

「いえ、気にしていませんよ。すみません。私…」

そこまで口に出すが次が恥ずかしい…仕方なく、氷麗は、能力を使った。

「(氷の国にいたとき、氷の国の王子に求婚されて、無理矢理結婚までさせられそうになって、それから男性が苦手なんです)」

「……?」

なんスーが、不思議そうな顔をして氷麗を見つめる。

「(私、恥ずかしがりやで、人の脳に直接話しかけられるんです)」

そういうと、なんスーは困惑した顔をして、次の瞬間、大声で笑いだした。

「あっははははは!氷麗おもしろ!」

「なっ…!」

「めっちゃ笑ったわ〜、あ、やべー。面白すぎて素が出たわ」

笑い上戸なのか本当に面白かったのかなんスーは笑いっぱなしだ。

「わ、私、そんな面白い?」

彼が素で話すので氷麗も素で話すとなんスーは笑いすぎて出た涙を拭い、

「ごめん、すげー能力だね。改めてよろしく、氷麗。一緒に呑めて楽しかった。またね」   

と言い残し、部屋に帰ってしまった。

「な、何なのよ……」

困惑しているとあまりの大声に執事長が怒った様子で食堂にやってきて、珍しくなぜか氷麗だけこっぴどく叱られてしまった。……執事長もなかなか煩いですよ、という心の声は脳に届けずに心にしまった。