氷麗は昼間のことを思い出しながら、ひとりで晩酌する。いつもは自室で呑むのだが、今日は食堂が空いていたので、緋女に近い席に座り緋女が食事をしている光景を思い出しながら炎の国がご贔屓にしている国の特産品、大好物になった御魂酒に口を付けた。
…それにしてもなんスーはすごい魔力を保有している。氷麗の全力凍結攻撃を受けて数分もたたず氷から抜け出している者など、氷の国にもいなかった。

「不思議な人…」

「誰のことですか?」

氷麗の声に綺麗なハスキーボイスが反応する。びっくりしてそこを見るとなんスーが手に真っ赤なワインをもっている…ワインであってほしい。

「お一人で晩酌なんてズルいな。俺も一緒にいいですか?」

なんスーがニッと笑うとうっすら尖った牙が見える。

「どうぞ…。わ、ワイン、好きなんですね」

「あぁ、これは血です」

「!?」

「冗談です。ブラッディブラックっていう俺の故郷の有名な赤ワインです。名前の通り血のような赤黒さが特徴です。冷やしても美味しいし、常温もまた
…いい感じにぬるくなっていいんですよね」

言い回しがいちいち恐ろしいが多分本気でそのワインが好きなのだろう。その証拠にみるみるうちにワインが減っていく。

「ペース早いですよ。大丈夫ですか?」

氷麗がそういうとなんスーが少し止まる。

「これは失礼。綺麗な人と呑むと緊張でペースが上がるんです」

「へ⁉」

氷麗が動揺したがなんスーは特に気にした様子もなくまたワインを煽る。
口の端についたワインを指でこすりなめとる仕草も一々妖艶だ。