思わず視線を逸らして言うと、彼女は「だって…」なんて言葉を濁す。
「…僕だって、その…初めて、なんだよ」
「えっ…」
「~~~っ、だから、おあいこな!」
そうぶっきらぼうに叫ぶと、
紗梨奈の顔がゆでだこみたいに赤くなっていることに気付いた。
きっと、僕の顔もこんな風になってるんだろうな。
瞳を潤わせながら、頬を染めて嬉しそうな表情を浮かべる彼女。
止まってしまったはずの心臓が、静かに鼓動を再開したような気がした。
「………!」
気が付くと僕は、再び彼女に唇を寄せていた。
大きく目を見開いた紗梨奈の顔で、視界がいっぱいになる。
今度のキスは、とても甘くて、
顔を離すのがさっきよりも遅くなった。
目をぱちくりさせる彼女に、いたずらに微笑んでから
その華奢な体を力いっぱい抱き締める。
懐かしい、シャンプーの香り。
僕が好きだって言った匂い。
ずっと、こうしていたい。
ずっと、僕だけがこうしていたかった。
来年は違う男がこうしているかもしれない。
もしかしたら半年後、1か月後…。
なんて……考え出したらきりがない。


