戻ってきたんだ…(短編)



「やめて…やめてよ。
そんなこと、言わないで………?

私は翔が好きなの…他の人となんて、幸せになれないよ……っ」


小さく震えた声。

彼女の瞳から溢れる大粒の涙が、じんわりと僕の服を濡らした。


「紗梨奈………」


優しく名前を呼べば、びくりと彼女の体が跳ねる。


僕は彼女の体を少し離すと、顎を軽く持ち上げた。

涙でぐしゃぐしゃになったその顔に心を痛めながらも、そっと顔を近付ける。


「っ…!」


紗梨奈の息を呑む音がした。



唇の温かくて柔らかい感触。


生前で触れることのできなかったそこは、

レモンの味ではなく、ほんのりと塩の味がした。


「しょ、う……?」


ゆっくりと顔を離せば、ぽかんとした紗梨奈の間抜け面。

その顔に思わず噴き出した。


「ぷっ、なんて顔してるんだよ」


「なっ…ひ、ひどい!
だ、だって今の私…、ファーストキ……―――」


勢いで紡がれていく彼女の言葉が、最後まで言い終わる前に。

右手を顔前に出して制する。


「ばか、そういうこと言うなよ。

…………こっちが照れる」