戻ってきたんだ…(短編)


「……ごめん、大声だして」


静かにそう謝ると、彼女はゆっくりと首を横に振った。


「ううん…私のほうこそごめん。


……無神経なこと言った」


俯きながらいまだに僕の服の裾を掴む手に、ぎゅっと力が籠った。

僕はそんな彼女の頭を何度か撫でると、そっと髪をすく。


「紗梨奈…覚えてる?
昔した約束」


「………………………流れ星…」


僕はぽそりと呟かれた彼女の答えに頷く。


「あれ、すごかったよな」


あの時を思い出しながら言うと、彼女はこくりと頷いた。


「また見ようって約束したのに、果たせなくてごめん…」


申し訳なさそうに言えば、彼女の体が強張る。


紗梨奈は馬鹿で単純だけど、気持ちに関しては鋭い。

だから、こういった僕の微妙な感情の変化も見逃さない。


…きっと気づいてるのだろう。

僕たちは

もう二度と逢えない、

と。


「…代わりに、別の約束をしよう」


「別の、約束…?」


ふと顔を上げた彼女の目には涙が浮かんでいて、

それを拭いながら、なるべく優しい笑みを浮かべる。


「幸せになるんだ」


「……え?」


「幸せになって、笑って?
僕はいつも、見守っているから」


彼女は目を見開いたまま固まっているけど、

僕は心からそう思ってる。


僕は本気で紗梨奈に幸せになってもらいたいし、

いつも笑っててほしい。


………僕がいなくなってからも

ずっと―――。


「っ……待ってよ。
そんなこと、言わないで…?
私っ――」


「……大丈夫、紗梨奈ならきっと…―――」


彼女の言いたいことは大体予想がつく。

けれど、あえて僕は先を言わせまいと口を挟んだ。


しかしそれも最後まで言葉を紡ぐことはできず、

彼女の悲痛な叫びによって止められることになる。


「やめてっ」