私は、公園から逃げるように、コウヤを連れて、家へと帰った。
公園に居た他の人たちが私たちを見る目と、いつまた純也が現れるかと思うと怖かったからだ。

鍵を閉めて部屋に入ると、どっと疲れが出た。
そのままベッドへと倒れ込む。

(はぁ……なんでこんなことに……)

目を瞑ると、純也の腕から流れていた血の色が焼き付いて離れない。

(大丈夫だったかな)

あんな男でも、一応元カレなのだ。
元気そうではあったけれど、狂犬病とか破傷風とか……感染症を起こしてしまったら大変だ。
その時は、やはり私の所為……になるのだろうか。
私は、コウヤを見た。
犬の姿のままお座りをして、私の様子をじっと伺っている。

(予防接種……なんて、してるわけないしね)

コウヤの口端が一部血で赤黒く汚れている。
私は、そっと指で拭ってやった。

(ううん、あれは自己防衛よ)

純也に無理やりキスされたことを思い出し、眉をしかめた。
もう頭の中がごちゃごちゃだ。
まさか純也があんな風に思っていたなんて……考えもしなかった。
とっくに別れたものと思っていたのに……。

コウヤが私の指を舐める。
お礼のつもりだろうか。
そして、今度は、私の頬を舌で舐めた。

「慰めてくれてるの?」

良い子ね、と言いながら首筋を撫でてやると、気持ちよさそうに目を閉じる。

「そう言えば、まだお礼も言ってなかったわね。
 コウヤ、助けてくれて、ありがとう」

コウヤが答えるように、わんと吠えた。


とりあえず、気分をすっきりさせるためにも、まずはシャワーを浴びようと思った。
昨夜は、結局、お風呂に入らずに寝てしまったのだ。
私は、脱衣所で服を脱ぐと、お風呂へ入って扉を閉めた。
振り返って見ると、さっきまで居なかった筈のコウヤが立っていて驚く。
コウヤは、犬の姿ではなく、人間の姿をしている。

「きゃっ……ちょっと、いつの間に入って来たのよ!
 しかも、また裸で……!」

私が扉を閉める時に、犬の姿のまま隙間をすり抜けて入り、中で人間の姿へ変身したのだろう。
コウヤは、思わず見惚れてしまうような笑みを見せた。

「ファムの身体、俺が綺麗にしてあげるよ」

そう言いながら、コウヤが私に手を伸ばした。
私は、その手を払い除けると、断固拒絶の意を示す。

「結構です! 自分で洗えるから!
 出てってよ!!」

私が脱衣所へ続く扉を開けようとすると、コウヤが手を扉について、それを防いだ。
目の前にコウヤの美麗な顔があって、どきっとする。

「どうして?
 初めて会った夜も、一緒にお風呂へ入ったのに」

「あ、あれは、犬の姿だったじゃない……!」

自分で言った後で、はたと気付く。
言われてみれば、犬の姿だろうと中身はコウヤなのだから、
よくよく考えてみれば、ものすごく恥ずかしいことをしていたのではないだろうか。

(うっ……あの時、全部私の裸を見られてたってわけね……)

私は、今更ながらに顔が熱くなるのが分かった。

「じゃあ、犬の姿だったらいいの?」

コウヤが純粋無垢な表情で首を傾げる。

「いや、そういうわけでは……」

と、私が言い終える前に、コウヤは、目の前で犬の姿に変身した。