私は、住んでいるアパートへ犬を連れて帰った。
一人暮らしなので、誰に気を遣うこともない。

(誰も見てないわよね……)

確か、このアパートは、ペット禁止だった筈だ。
私は、周りに誰もいなことを確認しながら、なるべく物音を立てないよう注意して、部屋へと入った。

「う~……寒いっ。
 あんたも私も、びしょ濡れね。
 まずは、お風呂かな」

私は、犬を抱えたままお風呂へ入った。

なるべく負担をかけないよう、ぬるま湯で身体についた汚れを落としてやる。
すると、犬は驚いたのか、急に立ち上がって全身を震わせた。
私の顔にまで水が飛び散る。

「きゃあっ! ちょ、ちょっと大丈夫よ。
 身体を綺麗にしてあげるだけだって」

私が優しく声を掛けてやっても、犬は、うろうろと風呂場を歩き回り、落ち着かない。
お風呂の扉を前足でがりがりと叩いているところを見ると、
どうやらお風呂は嫌いらしい。

「もう~……それだけ動けるなら、大丈夫そうね」

私は、犬が大きな怪我をしてなさそうなので安心した。
ついでに、私も汚れた服を脱いで、手早く身体を洗う。

コートは、あとでクリーニングに出そう。

「くぅ~ん……」

突然、犬が困ったように鳴き声を上げた。
見ると、壁の方へ顔を向けて伏せっている。

「どうしたの? やっぱりどこか悪いのかしら」

私は慌てて、自分の身体についた泡をシャワーで落とすと、
外からタオルを持って来て、犬の身体を拭いてやった。

「ほぁら、綺麗になったわよ」

私の言葉に答えるように、犬が私の手を舐めた。
〝ありがとう〟と言っているように感じた。

「ふふ、どういたしまして」

私も身体を拭いて、一緒にお風呂を出る。
ちょうど部屋の暖房が効いて、暖かくなっていた。

私は、パジャマに着替えると、ドライヤーで犬の毛を乾かしてやった。
今度は、嫌がらず、気持ちよさそうに目を閉じて大人しくしている。

「ハピを思い出すなぁ……よくこうやって、お風呂に入れてあげてたっけ」

子供の頃に飼っていた犬を思い出して言った。
ハピもお風呂は苦手で、ドライヤーをかけようとしても部屋中を逃げ回っていた。
それを私が追い掛けていた時のことを思い出し、自然と笑みが零れる。

「あなたは、お利口さんね。えらい、えらい」

犬は、褒められたことが嬉しかったのか、得意げに鼻を鳴らした。