「うおっ……なんだ、この美味いメシは?!」

コウヤは、目を輝かせながら、注文したカレーライスを食べている。
食欲をそそるスパイスの香りが私の方にまで漂ってくる。

今、私とコウヤは、レストランで向かい合って、座っていた。
朝からコーヒー以外何も口にしていないので、二人とも空腹だった。

「美味しそうに食べるわねぇ。
 あなたの異世界には、ないの? カレーライス」

(私もカレーライスにすれば良かったかな)

私は、自分の注文したサラダとパスタを食べながら、コウヤに訊ねた。

「俺のいた世界では、肉が主食なんだ。
 こんな美味いメシを食べたのは、生まれて初めてだ」

コウヤは、あっという間にカレーライスを平らげると、お代わりを注文した。

(っていうか、支払いするの私なんだけど)

私がパスタを食べ終わる前に、コウヤは、2皿目のカレーライスを平らげてしまっていた。
3皿目を頼もうとするコウヤを止めて、私は、ずっと聞きたかったことを聞いてみた。

「それで......コウヤは、いつ自分のいた世界へ帰るの?
 っていうか、帰れるものなの?」

「ああ、帰れる。
 でも、帰る時は、ファムも一緒だ」

にこっと笑いかけられて、思わずつられて私の頬も緩む。

「......って、違う違う。
 なんで私も一緒に行かなきゃいけないのよ。
 ってか、さっきから気になってたんだけど、その〝ファム〟って呼び方、何?」

「<運命の女神(ファムファタル)>のことだ。
 あんたは、俺の(つがい)になる女だからな」

「つまり、愛称ってわけね。
 ......いや、ならないからね?
 ってか、(つがい)って、意味分かって言ってる?
 結婚するってことよね??」

コウヤの世界では、別の意味があるのかもしれないと思い、念ため聞いてみる。

(つがい)は、共に子を生し、一生を添い遂げる相手という意味だ。
 俺たち<獣人(ベスティアン)>は、生涯をただ1人の相手だけと決めたら、死ぬまで離れることはない」

コウヤが真っ直ぐ私を見つめて言うので、私は、どきっとした。

「ふぅーん......ロマンチックね。
 でも、そんな大切な相手を簡単に決めちゃっていいの?
 私たち、知り合ったばかりなのに……」

「簡単なんかじゃない。
 行き倒れてた俺を助けてくれたのは、ファムだけだ。
 皆、俺を見ても、知らない顔をして通り過ぎて行った。
 俺は、ファムに出会えなければ、きっとあのまま死んでいた」

「そう言えば、なんであんな所で倒れていたの?
 その割には、結構すぐに復活してたけど......」

「俺たち<獣人(ベスティアン)>は、酸に弱いんだ。
 この世界の雨には、酸が多く混じっているらしい。
 雨に濡れて、力が出なくなってしまい、倒れた。
 俺の居た世界の雨は平気だったから、迂闊だった」

どうやら、コウヤの居た世界は、この世界よりも環境が綺麗なのだろう。
私は、ちょっとだけコウヤの居た世界に興味をもった。

「だから、お風呂に入れたら元気になったのね。
 でも、どうしてわざわざこんな異世界まで来て、#番__つがい__#を探すのよ。
 自分の居た世界に女性はいないの?」

「いや、女性の<獣人(ベスティアン)>もいる。
 でも、<獣人(ベスティアン)>同士の婚姻は、血を濃くしすぎてしまうんだ。
 その所為で、先祖返りをしてしまう子供が増えて、かなり深刻な問題になっている」

「先祖返り?」

「人としての理性を失い、ただの獣になってしまうことだ。
 俺たちは、元々、人間と獣の間に生まれた生き物なんだ」

「そ、それは、あんまり想像したくない話ね……」

「だから、こうして異世界へ来て、人間の女性を探している」

何だか聞いていると、話が壮大になり過ぎて、あまりついていけない。

「……ん? 
 ってことは、コウヤ以外にも、この世界へ来ている<獣人(ベスティアン)>が居るってこと?」

「その可能性はある。
 でも、この世界へ来ている同胞がいるかどうかは、俺には分からない」

私は、最後のパスタを食べきると、音を立てて合唱をした。

「とにかく、コウヤが早く自分の居た世界へ帰れるように、
 私が運命の(つがい)を探す手伝いをすればいいのね!」

「いや……俺の(つがい)は、ファムだけなんだが……」

「よっし、そうと解れば、婚活サイトに登録して~……」

「ファム……俺の話、聞いてない……」