約束

そういえば、
ここに来るまでゆいは
一言も言葉を発していない。

でも、これは今日に限ったことじゃない。

今から三年くらい前から、
ゆいは突如心を閉ざすようになった。

僕は何度かゆいに話しかけたけど
なかなか話してくれず、
時々名前を呼んでくれることはあったけど、
それ以上の話は何もない。

もしかしたら、
僕が知らない間に何か嫌なことが
あったのかもしれない。

やったらいけないことをしたとか、
友達とケンカをしちゃったとか、
お気に入りのマグカップを
割ってしまったとか……。

もしかしたらの話は
いくらでも考えられたけど、
それを彼女に聞こうとは思わなかった。

だって、
誰しも話したくないことや
言えないことってあるじゃないか。

だから、
ゆいのタイミングで僕に話をしてくれたら、
その時ちゃんと聞こうと思って
僕はただ彼女のそばにずっといた。

今日だってそう。

ゆいは突然
鎌倉と江ノ島のマップと思われるものを
持ち出し、ここまで来たのだ。

ゆいには一緒に行こうと
言われたわけではなかったけど、
昔からゆいがこうやってどこかへ
行こうとすると一緒に行く事が普通だった。

もし、本当に来てほしくないなら
「一人で行く」とか言うはずだし。

それにしても、
一体どういう風向きでこうなったのか、
僕にはさっぱり理解できなかった。

けど、マップを見つめるゆいの表情が
少しだけ嬉しそうだったから
それでいいかな、なんて思えた。