「蘭ちゃん、よく聞くのよ。お父さんは亡くなったの・・・死んでしまったの。もう居ないのよ。」

そう言った母。
私の肩を掴む母の手は震えていた。

「蘭ちゃんはお姉ちゃんなんだから、陸のことよろしくね。」

母の後ろに見える血にまみれた父の姿。
母の服に着いた紅い血。
目の前にある、悲しみも怒りも何も感じとることの出来ない母の瞳。

「・・・おかあさん・・・」

小さく小さくその言葉を発するしか出来ない。
金縛りにあったかのように固まった身体。


「陸が起きるといけない。ほら部屋に戻ってもう一度寝なさい。」


目の前の光景を頭の中から削除するかのように走って階段を登り、弟の陸の隣に潜り込んだ。