娘が待つ駐車場の近くまで来た時、
ふとズボンのポケットに手をやって気づいた、
しまった携帯を忘れた、ベンチの上だ。
無くしたらまた娘に叱られる。
慌てて、来た道を戻ると
奏楽堂の手前にしゃがみ込む女性の姿が目に入った、
思わず天を仰いだ、
間違いない、彼女だ、、
「美幸ちゃん!」
僕の声に驚いて振り返る彼女は、
信じられないものを見た顔で、また両手で顔を隠してしまった。
近くに寄って、泣きじゃくる彼女の肩をそっと抱き寄せた。
「大丈夫だから、離さないから、、」
もう
言葉はいらない
互いの気持ちは痛いほど分かる
ただ強く抱きしめて、彼女が泣き止むのを待とう
心配になって迎えに来たのだろうか、
遠くに娘の姿が見えた、
僕らの再会を目の当たりにして、
娘も泣いているのが、遠目にも分かった。
ベンチの上の携帯を拾い上げて、
「これのお陰で君と再会できた、もし携帯を忘れてなければ此処に戻る事はなかったんだ」
「し、信じられない、、もう会えないと思った、二度と会えないかも知れないって」
彼女は、僕の瞳を真っ直ぐに見上げて、
「圭くん、もう私には何もないから、、あなたについて行っていいの?」
「勿論さ、6年も君を待ってたんだから、君が嫌だと言っても連れて帰るよ」
もう一度、強く抱きしめて、
僕は46年間彼女に言えなかった言葉を口にした。
「美幸ちゃん、愛してる」
「圭くん、、最高のタイミングだよ、、」
「長いこと待たせちゃったね、行こっか」
「、、うん」