どんよりとした梅雨空に、湿気を孕んだ大気が纏わりつく、木々の葉もその重さに耐え兼ねて下を向いているようだ、

園内は再整備されて、当時の面影を残す場所は年々少なくなっていく。


此処は変わらないか、、

奏楽堂横のベンチに腰掛けて一息つくと、人の気配に鳴き止んでいた夏虫が再び鳴き始めた。

初夏の園内は、暑さが増したせいか昼時にもかかわらず、弁当を広げる人もいない。


「優樹菜、大丈夫だから一人にさせてくれないか」

「わかった車で待ってるね、何かあったら電話して」


彼女と出会ってから、気の遠くなるぐらい長い年月が過ぎた、彼女を幸せにしてあげられなかった贖罪の為か、妻には精一杯の愛情を注いだ。

妻は、自分を置いて僕が先に逝く事を許さなかった、、


でも麻由ちゃん、、
やっぱり独り身の夜は淋しいよ、


もし妻が生きていたなら、彼女と再会を考える事はあり得なかった。

麻由ちゃん、許してくれるよね、
そう長くない残りの人生だけは彼女に尽くしたいんだ、僕が死んだらまた麻由ちゃんを探しに行くから待っててくれるかな。


物思いに耽る間にも、時は刻一刻と過ぎていく。

止めようもなく、また約束の時間を過ぎる、
今年も来ないのか、、もう少しだけ待ちたい。

「もしもし優樹菜、 来年はもう来れないかも知れない、もう30分だけ頼む」