共働きが主流の現代では、僕の考え方は古い。

『男は惚れた女と、可愛い子供の為に脇目も振らず、がむしゃらに働けばいい』

口癖の様に言っていた。

妻に家事の全てを押しつけて、仕事に専念していた。

それでも互いが与えられた役割をしっかりこなせば、家庭は滞りなく回る、

子供の成長には、母親の"いってらっしゃい"と"おかえり"が必要だと思う。それは日々の子供のちょっとした変化を見逃さない為の手段でもあり、イジメや悩みを敏感に察知できるからだ、自分で鍵を開け誰もいない真っ暗な家に帰る子供の表情が笑顔であるはずがない。

お互い、そう信じていた、、



半月後、彼女から再び電話があった。

「圭くん、あなたの家の電話番号をまだ憶えてた。
この前電話を掛ける時にね、間違えちゃいけないと思って卒業アルバムを開いて確認したの、
私の記憶とピッタシだったよ、凄いでしょ」

無邪気に話す彼女は、昔と変わらない
臆病な性格を隠して、僕の前では明るく取り繕う

学生時代に戻った錯覚を覚えた、、

僕にはどうしても彼女に聞きたい事があった
無くしてしまった記憶のカケラ

互いが大好きだったのに別れなければならなかった理由

「美幸ちゃん、、
あの時の別れの理由を教えてくれないか」

突然の問いかけに彼女は戸惑っている、

「、、ごめん、私にもよく分からないんだ、
  "さよなら"は一時的な感情だったと思う。

だから、何ヶ月も圭くんからの電話を待っていた、

週末が来る度、圭くんの声が聞きたくなる、
気分が落ち込む度に、圭くんに会いたくなった。

卒業アルバムを開いては、あなたの優しい眼差しを思い出してた。

もし、圭くんが電話をくれたなら泣いて謝ろうって、
もう一度始めからやり直そうって、そう決めてた、
それだけは覚えてる」