受話器を置いてから、
気分が昂ぶっている自分に気づいた。
電話を切られそうで、
慌てて次の確約をした自分が可笑しかった、
どうして?
まだ話したい事は確かにあるけど、それ以上に彼と繋がっていたいと願う気持ちがある。
新しく何かが始まったような不思議な感覚だった、
私はまだ彼を愛してる?
少し違う気がする、
懐かしさが先で、惑わされてるのかな
でも、一生懸命に私を探してくれた彼に何か報いたい、
私の中に、何かが芽生えた気がした。
「ただいまー、母さん?」
玄関の扉が開く音がして、息子の智也が帰ってきた。
「はーい、ここにいるよ」
慌てて、玄関に出迎える
「母さん、来週東京に出張になったんだ、準備頼んでいいかな」
「いつもみたいな感じでいいの?」
「うん、でも今度は一週間だから着替えも多めにね、母さん一人で大丈夫?」
主人は北海道に単身赴任中で、息子は一人きりになる私を心配してくれている。
商社に勤める主人は、若い時からほとんど家には帰らない。転勤も日本全国を、4・5年おきに転々としている。
お金だけは欠かさず入れてくれるので、特に気にもとめない。互いの愛情は冷え切っていて、夫婦関係はとうの昔に破綻していた。
年に数回は息子の顔を見に帰ってくるけど、私に感心は示さない、女として求められる事もない。
それでも離婚を切り出さないのは、商社マンとしてのステータスだからだろうか。
離婚はイメージが悪いからね。
当然、赴任先では女の一人でもいるだろう事は容易に想像できてしまう。
私が圭くんに人並に幸せと言ったのは、息子と二人暮らしでも母子家庭のように、生活には窮してないからだ。