41年ぶりに聞く彼女の声、、
変わらない気がする、目を閉じれば心の中で僕の名を呼ぶ彼女と同じ声だ。



「圭くん、本当に私を探してくれてたの?」

「そうさ、こんな気持ちは初めてなんだ。
 君のことを思い出しているうちに、18歳の君にまた恋をしてしまった」


「ありがとう、でも私はもうおばちゃんだからね」


「僕も一緒だよ、あれから40年以上も経ってるんだから、今までお互いすれ違うことさえなくても、君がずっと近くにいる気がしていたんだ、
それなのに、君の家が無くなっていたことに気付いたあの日から、
まるで、大切な幼な子を見失ってしまったかのように居ても立ってもいられなくなって、あてもなく君を探し始めたんだ」

「私は果報者だね、40年以上も昔の愛しい恋人が探してくれてたなんて」

「美幸ちゃん、幸せに暮らしてる?」

「うん、人並みに幸せかな、、圭くんは?」


「僕は、、5年前に最愛の妻を亡くしたんだ、、
 それもあって、君を探したくなったのかもしれない」

5年前、それは突然の出来事だった。

仕事中に携帯電話が鳴り、出ると警察からだと言う。
妻が自動車事故に遭って、病院に搬送されたから来る様に告げられた。

仕事を放り出して急いで駆けつけると、病院のベッドの上で眠るように横たわる妻がいた。

その時は、余りの衝撃に頭が追いつかず、涙すら出なかった。

夢ではないか? 
今朝、いつもと同じ笑顔で送り出してくれたばかりなのに。

やがて駆けつけた子供たちが、妻に泣き縋るのを見て、初めてそれが現実のことだと理解する。


「圭くん、辛かったね、、少しは和らいだの?」


「時薬だよ、君と別れた時と同じさ、

 最初のうちは理解できない、暫くすると悲しみが増す、悲しみは半年が過ぎた頃にピークを迎えて、やがて少しずつ、少しずつ時が忘れさせてくれる。

でも、それは彼女の存在自体を忘れていく訳じゃない。
亡くした悲しみを忘れるだけで、僕の中の彼女は少しも色褪せはしないんだ、今も僕の胸の中で生きている」