やがて鍵を開ける音がして、玄関のドアが開かれると、家の中から背の高い綺麗な女性が現れた、私と同年代の筈なのに、ひと回りも若く見える。

「奥様ですか?」

「はい、そうです」

「実は、ご主人が書かれた小説の事でお伺いしたんです、奥様が変な誤解をされてるんじゃないかと思って。でも信じて下さい。ご主人とは40年前に別れたきり、電話も、ましてやお会いした事など一度もありません、、」

「白河さん、わざわざそれを言うために?」

「はい、あの本を奥様が見たら、どんな気持ちになるだろうと思って・・・」

「・・・・ありがとう、私も話したい事があります、まぁ此処では何ですから、どうぞ上がって下さい」

彼女はそう言うと、
私を家の中に招き入れてくれた。

「どうぞ座って下さい、冷たいもので良いですか?」

「あっはい、すみません、有難うございます」

出されたお茶を一口頂くと、ふと懐かしさを感じた、

「美味しい、玄米茶ですね、久しぶりに頂きました」

「彼が大好きだったんです」


彼女は向かい側に座ると、少し考えてからゆっくりと話し始めた。

「白河さん、私は貴女を信じる前に彼を信じてますから、私達夫婦の間に、隠し事は無かったから、
白河さん、えっと白河さんで良かったかしら?」

「は、はい結婚して高瀬です、高瀬美幸です」

「高瀬さん、一つ教えて下さい。あの小説に書かれている事は、どこまで本当の事なんですか?」

「私も、40年も前の事なので記憶が曖昧で、所々思い当たる節はあるんですけど、半分ぐらいは、それに、、私あんなに可愛くなかったんです。」

「半分ぐらいは彼の創作なんですね。それを聞いて少し安心しました。
 だって、小説に出てくる美幸さんは彼が一番好きなタイプだから、本当にこんな恋愛をしてたんだろうかって、私少しやきもちを妬いたの」

奥さんの気持ちがわかる、圭くん、私を美化し過ぎだよ。