次の日曜日、
娘の車に乗って彼の家に向かった。

あれから、もう40年も過ぎた、、車窓を流れる景色は私の記憶に触れない、
長い年月が全てを変えてしまっていた。

「お母さん、この辺だと思うよ」
「たぶん、あそこの角の家だと思う」

40年前、まだ田畑が多く残っていたその町は、
当時の面影はなく、住宅が密集して立ち並んでいた。

邪魔にならない場所を探し車を停めて、
「美咲、そんなに時間かからないと思うから、車で待ってて」

娘を残して一人車を降りた。


40年ぶりに訪れる彼の家、

そういえば、
君嶋という苗字はこの近所に沢山あった。
同じ町の同じ苗字であっても親戚関係は意外と少ない、地名や職業、歴史に由来する苗字が多いからだ。

あの時、私は隣の家と間違えて恥ずかしい思いをしたんだった。

彼の家も建て替えられて綺麗になっていた、前の家は区画整理で移転せざるを得ず、古い家を移築したと聞いていた。

奥さんは怒ってるかなー、、

番地と表札を確認して、
思い切ってインターホンを鳴らした、

「あの、突然お邪魔してすみません。君嶋圭悟さんのお宅ですか?」

「はい、そうですけど、、
 主人は2年前に他界しておりますが、、」

「あっはい、存じてます。
 私、白河です。白河美幸と申します」

「えっ、白河さん?、、小説の?」

「はい、そうです」


やはり、奥さんは小説の事を知っていた。
知らなかったら知らなかったで、知人のフリをして訃報を聞いて訪れたことにすればいい、そう思っていた。