買い物途中の娘を促して、急いで本を買って帰り、
すぐに寝室に籠った。

ページをめくるのももどかしく、買った本を一気に読み進める。


読めば読むほどに、涙が止めどなく流れる、
38年も前の事を、私も思い出してしまった。

微かな記憶が色付けされて、私の脳裏に色鮮やかに浮かび上がった、、

甘くて切ない、嬉しくて、そして辛かった青春時代の思い出。

私と圭くんしか知らない事が、いっぱい書かれていた。

間違いない、、、圭くんが書いた本だ。

そうだった、最後の電話は、お互い掛ける言葉も見つからず、無言のまま切れてしまった。

私は、恋の終わりを確信して涙に暮れた。

もう彼の事は諦めよう。私がどんなに彼の事を思っていても、彼の心が離れていくの感じていたから。

それでも、もう一度、もう一度だけでいいから電話を掛けたい衝動にかられて、幾日も眠れない夜を過ごしたんだった。

圭くん、もう一度、電話したらやり直せた?
私が謝ったら貴方は許してくれた?

あの時、何故私は"さよなら"を選んでしまったのだろうか、
彼と別れる事より辛い事なんてない筈なのに。

圭くん、もし貴方の方から電話を掛けてくれたなら、多分私は泣いて謝ったと思うわ。
お互いが意地を張って取り返しのつかない結果を生んでしまった、、



「ただいまー」

あっ! 主人が帰宅したみたいだ。

「美咲、母さんはどうした?」


こんな顔は主人には見せられない。
慌てて、ドレッサーに向かって取り繕った。

「なんかね、元カレが本を出したんだって、それを本屋さんで偶然見つけて、今読書中かな」

「元カレ? 穏やかじゃないなぁ。
 んっ待て、、一体何年前の元カレだ?」

「お父さんと知り合う前に決まってるじゃない、
38年も前らしいよ」