2022年 夏


「お母さん、暇でしょ。買い物付き合ってよ」

娘の美咲は、28才、広告代理店で働いている。
仕事が楽しいのか、一人が気楽なのか男の話はあまり聞かなかった。


「人を暇人みたいに言わないでくれる」

「何か予定でもあるの?」

「・・別にないけど、、」

「ほらね、たまには私が何か買ってあげるからさ、一緒に行こうよ」

最近は自分でも出不精になってるのがわかる。
更年期なのか、何事も億劫でやる気が出なかった。

急かされる様に身支度を整えると、娘の車に乗せられて郊外に新しくできたショッピングセンターへと向かった。

「いつの間にか、美咲の運転も上手になったね」

「最近は車に乗る機会が増えたからね、もう助手席に乗ってても怖くないでしょ?」

「うん平気かな、でも慣れたぐらいが一番事故が多いっていうから気をつけてよ」

「分かってるって、安全運転、安全運転」


郊外のショッピングセンターは広い、私だったら何処に車を停めたか分からなくなりそうだ。

車を降りて、振り向きもせず歩き出す娘に、そんな不安を口にした。

「美咲、車停めた場所ちゃんと覚えておかないと、帰れなくなっちゃうよ」

すると、娘は溜め息を吐きながらスマホを操作して

「お母さん、今の車は賢いんだから、ナビとスマホが連動してるの」

スマホの画面には、車の位置と今自分達がいる場所の両方が地図上に点滅していた。

それを見た私の目も点になった。

「へぇすごいね、これなら車を停めた場所を忘れても大丈夫だね。これってスマホ同士でもできるの?」

「もともとスマホの機能だからね」

「それじゃ、私と美咲も出来るようにしてよ。そしたら迷子にならないでしょ」

「それは、お母さんでも嫌です!」

「何で? 便利じゃない、何処にいるのかわかるんだよ」

「だから嫌なんじゃない、私にもプライバシーはありますから、それに迷子になったら電話すれば済むでしょ」

「そうかぁ、確かに電話をかければいいね」

「そんなにやりたかったら、お父さんにやりたいって言ってみたら、たぶん怒り出すから」

「何で怒るの?」

「どんなに仲が良い間柄でも、監視されてるみた
 いで嫌だと思うよ、信用されていないって感じるよね」

「そっか、そうだよね。何処に居るか分かっちゃったら、私も友達とランチに行きづらくなるもんね」