名古屋の夏は、気温以上に暑く感じる。
身体に纏わりつくような湿気にはうんざりさせられる。

そんな、
蒸し暑く長い夏が終わりを告げ、秋の気配を感じ始めた九月初旬のことだった、


「圭くん、最近電話くれないよね。私ばっかり掛けてる」

「そうかな、特に意識してないけど気を付けるよ」


何故だろう、なんとなく彼女と距離を置こうとしている自分がいる気がした。

「誰か好きな人ができた?」

「考え過ぎだよ、そんな事ないから」

「雅美ちゃんがね、クラスに圭くんの事を好きな子がいるよって教えてくれたんだ、気になって、、」

雅美ちゃんというのは、彼女の幼馴染で、偶然にも今僕と同じ専門学校に通っていた。

クラスは違うけど、顔を合わせるといつも「美幸ちゃん元気」って聞かれる。

「僕はそれが誰なのかも知らないし、告白もされてないよ」


「圭くん、、私、不安でいっぱいなんだ、
私が高校に入って圭くんを好きになったように、
新しい出会いが沢山あるから、、」


2人の距離が勝手な憶測をよび不安を募らせる。

「なかなか会えないからね、でもしょうがないよ、お互い歩いてる道が違うんだから」

「そんな言い方しないでよ、、悲しくなるから、
 ねぇ圭くん教えて、私はどうしたらいい、
 どうしたら圭くんと同じ未来に行けるかな?」

二人が置かれている環境は今までと殆ど変わっていない、彼女が何に対してそれ程不安な気持ちを抱くのか、僕にはいまいち分からなかった。

それに、僕にも彼女に対する不安な気持ちはある。
彼女が少しずつ大人になって、僕だけが取り残されていく気がしていた。

そんな気持ちの苛立ちがついつい口調に出てしまったのだろうか、
「難しいこと聞かないでよ、美幸に分からない事が僕に分かるはずがないでしょ」

「・・・・
大学辞めて、圭くんと同じ学校に行こうかなぁ」

さすがに腹が立って、初めて彼女に怒ってしまった。

「何馬鹿な事言ってるの、あんなに一生懸命勉強して入った大学なのに、僕のせいで辞めたら一生恨むから」

「・・・・」

受話器から啜り泣く声が聞こえてきた、

「美幸の両親だって、そんな事絶対に許してくれないよ」

「それは分かってるけど、、」

「とにかく、今の状況では何もできないさ、お互いを信じて前に進むしかない。美幸! 分かった!、」

そのまま、電話を切ってしまった。

感情に任せて言い過ぎたかもしれない。

でも、僕の為に先生になりたい夢を諦めていいはずがない。

僕は彼女の足手纏いになっているのだろうか。