彼女は、僕の左腕に掴まって頭をもたげる、

ステージでは、コピーバンドが名の知れた歌を真似て歌っていた。
前方の席には、バンドのファンらしき女の子が盛り上がっている。
「あのボーカルの人、三年の京本さん。女の子にモテモテなの、前に陣取ってるのが彼の取り巻きだよ」

確かにハンサムで歌も上手い。
男の僕から見ても、格好良くみえる。

「美幸は京本さんに興味ないの?」

頭を小突かれた。
「私は、圭くん一途なの」

嬉しい事を言ってくれる、右腕で彼女を抱き寄せて胸に包み込んであげた、、
「うーん、圭くん苦しい」

「圭くんも歌上手だから、バンドやればいいのに」

「えっ、僕の歌なんて聞いたことあるの?」
「ほら、高校一年の時クラスの皆んなで緑地公園に行ったじゃない、その時罰ゲームで、圭くん歌わされたでしょ」

あぁ確かにそんな事があった、良く覚えてたね、、
でも、クラス全員じゃなかった気がする。

あの時彼女は、、
「美幸は、あの時居たんだっけ?」

また叩かれた。

「どうせ私は印象が薄いですぅ。あの時、私は京本さんの取り巻きみたいに、うっとりしながら圭くんの歌を聴いてたんだから」

思い出した、あの時初めて人前で歌ったんだった。

まだカラオケなんて無かった時代、人前で歌を歌うこと自体珍しい。

「圭くん、高校の文化祭は最後に皆んなで『心の旅』を歌ったよね」
「うん、結構盛り上がったよね、まだ一年しか経ってないのに、なんか凄く前のような気がする」

「美幸の歌も聴いてみたいな」
と言うと、彼女は、頬を膨らませて
「絶対に嫌です」と答えた。

校内をひと回り見て、帰途についた。