「圭くん、5月に大学祭があるんだけど良かったら観に来て、」

「大学祭って、高校の文化祭みたいなの?」

「もうちょっと規模が大きいかな、模擬店とかコンサートもあるよ、ゲストも呼んでるから結構本格的なんだ」

「美幸は何かやるの?」

「私はまだ入学したばかりだから、単なるお客さん。だから、圭くんと一緒に見て廻れるからいいでしょ」

「分かった、暫く美幸に会ってないから行こかな」

「ありがとう、楽しみにしてるね」


5月の連休明けの日曜日、総合駅で彼女と待ち合わせて郊外行きのローカル線に乗り込んだ。

少し会わない内に、僕の目には彼女が一段と大人びて見えていた。
「今日の服は大人っぽいね」
「ありがとう、大学ってさぁ、皆ーんなおしゃれなんだよね。今まで着てたような服は恥ずかしくて着ていけないよ」

「そうなんだ、僕は・・」と言いかけてやめた。

彼女は僕の知らない世界で生きている、それは彼女の全てを誰よりも知っていると思っていた僕に寂しさを与え不安を募らせていた。彼女の中ではきっとそれが今の常識で、僕の考えなど非常識に聞こえるだろうから。
僕は子供っぽい美幸の方が好きかな、とは言えなかった、

「僕は? なに?」
「いや、なんでもないよ」

こんな事でもなければ、まず乗らない電車に乗って小1時間、車窓から望む景色は灰色から緑色へと変わっていく、

「こんな電車に乗ってると、これから二人で駆け落ちするみたいだね」
僕が何気に呟くと、彼女は目を見開いて僕の腕に掴まり身体を寄せる、
「本当にそうならいいなー、何で私たちこんなに子供なんだろね、早く大人にならないかな」

早く大人になりたい、そう思う反面このままでいたいとも願う。

「ねぇ圭くん、私たちが大人になって、もし結婚を反対されたら一緒に逃避行してくれる?」

「勿論さ、知らない街で2人で力を合わせて頑張ればいいよね」

ありきたりな返事しかできない所が、まだ子供なのだろう。
出来もしない事を夢のように語る。

「ありがとう、圭くん」