1983年 春


受験生の長い冬がようやく終わりを告げる、
彼女は、目標としていた教育大学への進学が決まり、
僕はと言うと、冷やかし程度で受けた大学はもちろんダメで、コンピュータ関連の専門学校に進む事になった。

高校を卒業し、離れ離れの春が訪れる。

付き合い出して約1年、彼女への同情から始まった交際は、受験勉強の合間を縫って確かに育まれ、
いつしか、僕にとって彼女はかけがえのない存在へと変わっていた。

「美幸ちゃん、合格おめでとう」

「私だけ喜んでいいのかな」

「僕の事は気にしなくていいよ、もともと冷やかし程度なんだから、落ちて当たり前、自分のやりたい事も見つからないし、取り敢えず進学して考えるから」

「もうすぐ卒業だね、、なんか寂しいな」

「あまり会えなくなるけど、今までとそんなに変わらないから大丈夫だよ」

この1年、同じ高校に通っていても、学校で顔を合わせる機会は少なかったから、本当にそう思っていた。

「圭くん、可愛い子がいても、絶対浮気しないでね」
「美幸ちゃんこそ、僕より年上のカッコいい男が沢山いるだろうから、誘惑されないでよ」

「私は、3年間ずっと圭くん一途だったんだから、そんなことするわけないよ」

どんなにお互いを思っていても、2人の距離が離れれば、心も離れる。

後で考えると、この時期を境に2人の関係は徐々に崩れ始めていた気がする。


新年度が始まると、お互いが新しい環境の中で忙しい日々を送っていた。

どちらからともなくかける週一回の電話だけが、2人を繋いでいた。

「ねぇ、圭くん。私、写真が欲しいんだけど、、」
「写真?」
「うん、2人で撮った写真は一枚もないでしょ」

 そう言われれば、1年も付き合っているのに、2人で写真を撮ったことがなかった。

スマホやプリクラのない時代、カメラで撮ったフィルムを現像焼増しして初めて写真ができる、カメラはまだまだ高級品で、どの家庭にもあるものではなかった。
 
「そうだね、僕も美幸ちゃんの写真が欲しいかな」

「うん、あまり会えないから、互いの写真を持っていたいんだ、そしたら、いつも一緒でしょ、
みんな定期入れに、彼氏の写真を入れてるんだよ」