1982年 冬

時の流れは、時間を必要とする時は速く、速く過ぎ去って欲しい時には逆に遅く感じるものだ。

そう考えると、この受験期間は実に微妙なものだった。

まだまだ勉強が足りないから時間が欲しいと思う反面、この苦しい日々から早く解放されたいと願う気持ちが混在している。
受験が終わるまで、そのジレンマからは抜け出せないでいた。


僕達のそんな感情とは無関係に季節は過ぎてゆく、短い秋を感じる余裕もなく、受験生には辛い夜長の季節が訪れた。

受験生にはクリスマスも正月もないと言われていたけど、恋人同士の関係では電話の一本も掛けたくなる、

プラネタリウムでのデートから、既に3ヶ月余りが経っていた。

「美幸ちゃん、大丈夫?」

「う〜ん、あんまり大丈夫じゃないかな、なんか、心が折れそうなんだ。いろんな事考え過ぎちゃって」

声に元気がなかった、
「何かあったの?」

「うううん、違うの、、別に何もないよ、でも、、」

「でも?」

「心細いかな、だから、、あ・い・た・い、、圭くんに逢いたい」

今までの彼女だったら絶対口にしなかった言葉を、精一杯の勇気を振り絞って表した。

僕は、受話器に向かって叫んでいた。

「美幸ちゃん、今から行くから、待ってて‼︎」

「えっ?」

電話を切って一目散に駅へと向かった。夕方5時をまわっている。
西の空に日が落ちかけていた。
彼女の家まで地下鉄を乗り継いで30分はかかる。
駅に着いた頃には、既に辺りは暗闇に覆われていた。

受験の時期、今のこの時間では、さすがに彼女の家を訪ねるのは気が引ける、家族にどんな目で見られるか分からないから、、

公衆電話から電話すると、幸いにも彼女が出てくれた、
近くの公園に出てきてもらうことにした。