どうしていいのか、、わからない、
僕の中で日増しに存在感を増していく彼女に、戸惑っていた。

僕は、記憶の中で時を止めた18歳の彼女に再び恋をしているのだろうか、、
彼女の無邪気な笑顔を思い浮かべる度に、苦しいほどに胸が締めつけられる。


そんな僕の心の動揺は妻に見透かされていた。

「圭ちゃん、最近元気ないねぇ、誰かに恋してるみたい」

ドキッとした。
妻の観察眼には、度々驚かされる、

「麻由ちゃん、僕は浮気はしないよ、君と一緒になる時に誓ったんだから。君の泣き顔だけは見たくないんだ」

「知ってるよ、そんな心配はしてないけど、私以外の女のことを考えてないかなって?」

「・・・・」

僕をずっと見ているわけではないだろうが、物思いに耽るちょっとした間が、妻には不自然に見えるのだろう。

「麻由ちゃんには隠し事は出来ないね、
 実はさぁ、、」

別に隠す事でもない、妻は僕の良き理解者であり相談相手でもあった。妻に彼女のことを、ありのままに話した。

「ふ〜ん、圭ちゃんはその子に何を伝えたいの?」

「本当の所、何故別れなければならなかったのか、わからないんだ。喧嘩別れした訳じゃないと思う、何故かお互いに電話もしなくなって自然と消滅してしまった」

「38年も前の事だからね、当時自分が何を考えていたのかも思い出せなくて当然だと思うよ」

そう、思い出せないんだ、最後の会話を、、

「彼女に謝りたいのかなー、
当時の僕はまだまだ子供で、少しずつ大人になっていく彼女を、受け入れてあげられなかった。くだらない意地を張って彼女を傷つけてしまった気がする」

妻は思慮深い、少し考えてから、

「なんか違う気がするよ、圭ちゃんはさぁ、守ってあげたい子が好きなんだよね、私みたいに。
だから、大人になっていく彼女は、もう圭ちゃんが守らなくても大丈夫に映ったかもしれないよ」

そうか、、
なんとなく、妻の指摘は的を得てる気がした。

「もしその子が見つかったら、圭ちゃんはその子に何がしたいの?」

「どうなんだろう、会いたいわけじゃないと思う。
でも、彼女に聞いてみたい事が沢山あるんだ」

ジグソーパズルのピースを無くしてしまってパズルが完成しない様に、自分の記憶から抜け落ちた青春の1ページを探し出して当て嵌めたい。
そんな感覚だった。

「私は圭ちゃんを信じてるから別に構わないけど、、でもさ、その子はなんて思うだろう、
 私にも、高校生の時に大好きだった人がいたけど、今その人から何かアプローチされても逆に迷惑だから、だって私には素敵なダーリンがいるからね」

妻の言うことは最もだ。
彼女が今幸せでいるなら、わざわざ波風を立てるような行為は慎むべきだった。

僕はいったい、何がしたいのだろうか。
 
でも僕の中の彼女も、最初は単なる記憶のひとカケラに過ぎなかった、ところが二度と彼女に会えないと知った時、僕の中の彼女は目覚めてしまった。
それが今では心の過半数を占めている気がする。
誰にでも同じ事が起きるかもしれない、
麻由ちゃんだって・・・

「圭ちゃん、気分転換にお出かけしよ」