「美幸ちゃん、ひとつ聞いていいかな?」

「なに?」

「僕を好きになったきっかけは何だったの?」

「圭くん、覚えてないかな、
一年生の二学期の始め頃だった、学校が終わって自転車で駅に向かって走ってた時に、道路の段差の衝撃でチェーンが外れて動かなくなったの、
私は歩道にしゃがんで、途方に暮れていた、
 何人かの生徒が私の前を通ったけど、チラッと見るだけで誰も助けてくれなかった。
 そこに圭くんが、友達と喋りながら自転車を押して私の前を通り過ぎたんだ。
あっ君嶋くんだって思ったけど、内気な性格の私は声に出して言えなかった、
すると圭くんは10メートルぐらい先で立ち止まって、友達に先に帰るよう促すと戻って来てくれた。

『自転車どうかしたの?』って

あの時のあなたの優しげな声を、私は今でも覚えてる。
 
私がチェーンが外れて動かなくなった事を説明すると、圭くんはカバンの中から筆箱を取り出して一本のシャープペンを手にした。

一体、何をするんだろ、、

圭くんは、外れたチェーンをペンの先で持ち上げると、空いた手でペダルをゆっくりと回した。
まるで魔法のように、外れたチェーンが歯車に吸い寄せられていく。

『これで大丈夫だよ』

『すごーい、何でそんな事できるの?』

『僕は自転車いじりが好きだから、油を差して手入れしないと駄目だよ、ほらチェーンがギアから離れづらくなってるでしょ』

本当だ、私が見ても負荷が掛かってるのが分かる。


『君嶋くん、ありがとう』

私がそう言った時、圭くんは不思議な顔をして何て言ったと思う?

『何で、僕の名前知ってるの?』って

酷くない、一学期同じクラスで過ごしたんだよ。

私が、『同じクラスの白河ですけど』
って言うと、圭くんは罰が悪そうに頭を掻いて、

『えっ白河さん? ごめん僕、人の顔を覚えるのが苦手だから、、』っていい訳してた」