「シナモンの味がするから?」
「そういうこと」
「今までキスしてこなかった理由って」
「タイミングもあるけど、そういうことです」
伏せられた目を彩るまつ毛が私より長くて、抜いてやろうかなんて思いが前は合ったけど。今は、正直それどころじゃなくて、まつ毛すら愛しい。
「ぷっ」
「笑うなって言っただろ」
「てっきり、私にそういう魅力ないんだと思ってた」
安堵からお腹を抱えて笑う。秋光がムッとしたのが分かった。
「光奈を他の奴らに取られたくないから、見せないようにしてるのに、そんなわけないだろ」
「へ? もしかして、付き合ってること隠してるのって」
「彼女見せろってうるさくされるから嫌なんだって」
なんだ、なんだ! そんな理由だったのか! 私が地味だから。私が秋光の隣に見合うように努力してないから。そんな理由じゃなくて。
愛しさが身体中から溢れて、こぼれ落ちそうだった。
「じゃあ、今度は秋光のために、はちみつキャンディとか用意しておこう。シナモンロール食べた後の口直し用に」
「なんだよそれ」
「好きでしょ、はちみつ味」
「好きだよ」
「だから」
ふふふっと笑って、帰る支度をする。今日は幸せな日だなぁ。
「じゃあ、もう一回しても良いってこと?」
「付き合ってるんですし?」
言葉にされると恥ずかしくて誤魔化すように、目線を逸らす。立ちあがろうとした私の肩には、秋光の両手が置かれていて。ぐっと下に押されている。
「秋光?」
「最後にもっかい」
柔らかい唇を押し付けられて、目を閉じれば甘い香りが身体中に広がった。
<了>



