歌い終わった秋光は、しゅんとしながら私の方を見る。
「下手、だろ俺」
癖は確かに強かった。でも、下手というほどでもない。それも意外だった。歌も上手そうなのに。秋光にも苦手なことがあったんだと思って少し嬉しくなってしまったのは、罪悪感。
「うまくは、ないよね」
素直に口に出せば、私の耳に届くほどの秋光のため息。
「知ってた。幻滅した?」
「そんなことない! 私だって別に上手くないし」
「そっか、ならよかった」
プルルルルという音で私たちの会話は止まって、電話に出ようとすれば、私を跨いで秋光が電話に出る。
「あと十分だって」
「時間も時間だし帰ろっか」
「そうだな、はい、出ます」
かちゃんと音を立てて秋光が受話器を置いた、かと思えば私をまたいだまま避けてくれない。
「どうしたの?」
「んー、んー、あーいやー」
誤魔化しながら、私の長い髪の毛を耳に掛ける。これはまさかと思いながら目を閉じれば、唇に優しいキス。頬に触れる秋光の手が尋常じゃないくらいに震えているから、そっと背中に手を回して抱きしめる。
緊張してるのが嬉しい、なんて。愛しい、なんて。
何度も襲ってくるキスに体が砕け散りそう。
秋光が離れた感覚に目を開ければ、秋光が横で烏龍茶を飲んでいて。
「シナモンロール禁止」
「なんで」
「笑うなよ」
「うん」
「俺シナモン嫌いなので禁止です」
会話の意図を把握しかねながら首を傾げる。青リンゴソーダを口に入れて、ハッとした。



