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秋光からメッセージで来たカラオケ屋で受付を済ませて、部屋を探す。三十二号室、三十二。数えながら、扉を開ければ秋光の手に寄って部屋の中に引き摺り込まれる。
「どこで見られるかわかんねーから」
「さすがに焦りすぎだって。バレたらそりゃあ、あれだけど」
「光奈のためなんだからな?」
秋光の言葉に、むっと息を飲み込んだ。自分がバレたくないくせに。
「分かってるって」
でも、私は反論できない。だって、私は秋光の横に相応しい人間になろうなんて思ってないんだもん。今のままの私を好きだと秋光は言ってくれたから、それで良いと思ってる。秋光には申し訳ないけど。
カラオケの部屋は少し薄暗くて、秋光の顔がいつもより見づらい。引き摺り込まれた時に流れで秋光の横に座ってしまったせいで、妙に緊張する。
太ももが少し触れてるのも、手がそのまま握られてるのも、ちょっと気まずい。
「あ、飲み物ごめん先に頼んだ」
色から見るに、青リンゴソーダと烏龍茶。珍しい組み合わせに秋光の方を伺うように見る。秋光側に青リンゴソーダがあるから、多分秋光用なんだろうけど。
こう言う場で私がいつも烏龍茶を飲んでる事を知ってる秋光に、ちょっと胸の中が潤んだ。青リンゴソーダは、先ほど飲みきれなかったハニーカフェオレの代わりということか。
「あっま」
一口飲んでから、うわぁっという顔をしてる。甘いものが嫌いなわけではないはずなのに。
「私も飲む」
奪い取って口にすれば、確かに甘いが美味しい甘さだ。烏龍茶を無言のまま秋光に渡せば、秋光は烏龍茶で口直ししていた。



